傑作ドキュメンタリー『アクト・オブ・キリング』井筒監督も「人間はあんな獣の顔になるのか」
遅ればせだが、渋谷の「シアターイメージフォーラム」で傑作ドキュメンタリーと評判の「アクト・オブ・キリング」を見てきた。映画の公式ページからあらすじを引用する。
<60年代のインドネシアで密かに行われた100万人規模の大虐殺。その実行者たちは、驚くべきことに、いまも『国民的英雄』として楽しげに暮らしている。映画作家ジョシュア・オッペンハイマーは人権団体の依頼で虐殺の被害者を取材していたが、当局から被害者への接触を禁止され、対象を加害者に変更。彼らが嬉々として過去の行為を再現して見せたのをきっかけに、『では、あなたたち自身で、カメラの前で演じてみませんか』と持ちかけてみた。まるで映画スター気取りで、身振り手振りで殺人の様子を詳細に演じてみせる男たち。しかし、その再演は、彼らにある変化をもたらしていく>
先週号の『週刊現代』で井筒和幸監督がコラムで「映画館から逃げ出したくなる衝撃ルポ」と書いている。<よくまあ、この殺戮者たちは撮影を許可したことだと呆れ返った。そして、こんな手の込んだドキュメンタリーの手法を思いつき、この人殺したちをまんまと被写体に誘き出し、よくもまあ製作したもんだわ。(中略)
過去など知らない孫と一緒に、自分で演じた殺害シーンの映像を平気で見入る場面には気が遠くなった。
人間は、教育が施されないとあんな獣の顔になるのか。ヒットラーもスターリンも、このアンワルには敵わない。(中略)夢でも吐きそうだわ。見なきゃよかった>
政治哲学者ハンナ・アーレントは元ナチスの高官アドルフ・アイヒマンについてこう語っている。<人間であることを拒否したアイヒマンは、人間の大切な質を放棄しました。それは思考する能力です。その結果モラルまで判断不能になりました。思考ができなくなると、平凡な人間が残虐行為に走るのです。私が望むのは、考えることで、人間が強くなることです>
この映画をハンナに見せたかったと、席を立つときそう思った。