地方の財政を強化する狙いで行なわれた平成の大合併で、全国に3200あった自治体は現在1700と半減したが、国の方針に乗った自治体の多くが財政難に陥っている。
規模の小さな自治体の数が減少すれば国の財政再建につながり、自治体も職員数削減や重複する公共施設を統廃合できるので行政の効率化を図れる。そんなバラ色の青写真を描いて1999年から2000年半ばにかけて次々と大合併が行われた。自治体の背中を押したのは国の特例措置だ。合併を促すため合併特例法を成立させ優遇策を講じた。
一つは地方交付税。合併でそれぞれの自治体が受けていた交付税の合計額は減るが、それでは合併が進まないと合併から10年間は減額せず据え置く特例が作られた。もう一つは合併した自治体に認められる合併特例債だ。合併した自治体が特例債を発行し借金しても、7割は国が負担するという破格の制度だった。
ところが、合併して生まれた新たな自治体の半数に当たる308市町村が深刻な財政難に苦しみ、今後は地方交付税の減額が進むのでさらにさらに570の自治体が財政悪化が進むとみられている。なぜこんな裏腹のことになってしまったのか――。
地方交付金の実質増額、合併特例債でバカスカ造った箱モノのツケ
兵庫県篠山市は1999年4月1日に篠山、今田、丹南、西紀の4町が合併して15年前に誕生した。平成の大合併第1号だった。人口は4万3000人だ。58年ころから合併話はあったが、具体的な検討に入ったきっかけは、4つの町が共同利用していたゴミ処理場や斎場などのインフラの老朽化だった。2つの施設の建て替えるには100億円が必要で、小さな町が単独では負担しきれない。合併特例債を使って整備しようと考えた。
誕生した篠山市は20億円投じて斎場を建設、ゴミ処理場を80億円の事業費で完成させた。ところが、これで終わらなかった。市民センター(25億円)、温泉施設(15億円)、図書館(19億円)、温泉プール(15億円)、博物館(18億円)などハコ物を次々に建設していった。国の支援があるとはいえ、合併特例債の3割は自治体負担である。借金返済額は60億円にも膨れ上がった。
巨額な借金に走ったのは、合併による人口増で税収が増えると見込んだからだ。当時、市の合併管理室長だった上田多紀夫氏によると、「合併効果で2割増の6万人に増えると設定していました」という。しかし、予想とは逆に2000年に4万6325人だった人口が、合併3年目から減少に転じ、10年には4万3268人になった。
市に借金返済が重くのしかかり、地方交付税の減額も重なって深刻な財政難に陥ってしまった。徹底した業務の見直しを迫られ、職員の3割削減、給与カット、さまざまな住民サービスの縮小や廃止に追い込まれている。
合併進めた国は手のひら返し!煽るだけ煽って「借りたのはあなた方の勝手でしょ」
甘いエサを与えた国の施策に問題があったのか、分不相応にエサに飛びついた自治体に問題があったのか。国谷裕子キャスターは「合併特例債を発行した市町村は506にのぼり、発行総額は5兆3600億円に達しています。それが借金返済となって重くのしかかり始めているわけですが、ある程度、財政の悪化や不安は推測できたのではないでしょうか。それでもこぞって合併に走ったのはどうしてでしょうか」と、後藤・安田記念東京都市研究所の新藤宗幸常務理事に聞いた。
「少子高齢化だけを考えても、財政状態がよくなるわけはないですよね。やはり、効率化を図り、町の近代化を進めるという雰囲気に流されたとしか言いようがないでしょう」
国谷「合併特例債に国はもう少し慎重になるべきだったような気がするがしますが」
新藤「私もそう思います。いかに合併させるか。そういう誘引を次々出して自治体を乗せていくという読みがあったと思いますが、当時の言葉として自己責任もよく言われました。国は『別に割り当てたわけではないよ。借りたのはあなた方でしょ』という言い方ができますからね。 合併が悪いとは言いませんが、きちんとした方向性を考えないで、やれ特例債だ、交付税の優遇だと飛びついてハコ物をつくったのは反省しないといけないでしょう」
篠山市は京文化の影響が色濃く残る観光と農業を組み合わせた観光農業に力を注ぐ。全国ブランドの丹波黒大豆や最高級ブランドで知られる丹波大納言(アズキ)など特産品の生産に力を入れ構造転換を始めている。
モンブラン
*NHKクローズアップ現代(2014年4月30日放送「平成の大合併 夢はいずこへ」)