国際テロ組織のアルカイダが復活しているという。9・11テロ後の米軍の掃討戦やオサマ・ビンラディンらの殺害で壊滅ともいわれていたが、形を変えた集団になりつつあるらしい。ヨーロッパで社会の下層にいる若者たちをリクルートし、新たなテロの尖兵にするのだという。
フランス国家警察担当者「イラク戦争のころの10倍」すでに2000人シリア入り
シリア前線の覆面姿の戦闘員が「われわれは神の教えに従い、敵を倒す」と叫んでいる影像では、言葉はフランス語だ。別の19歳の若者は「アメリカの対テロ戦争に協力するフランスは、祖国であっても攻撃の対象になる」と、これもフランス語である。
フランスでは2月(2014年)、カンヌの高級マンションで武器や爆発物でテロの準備をしていた若者を摘発した。シリア帰りだった。以来、厳戒態勢だ。リクルートされるのは多くがイスラム系移民の若者だが、ある18歳の若者はイスラム系ではなくキリスト教徒だった。母親は介護施設で働き、女手一つで息子を育ててきた。しかし、息子は学校を中退して職はなく、友人の多くはイスラム系だった。それが昨年12月、仲間3人とシリアへ行った。母親は「イスラム教に改宗したといっていまいた。ひげを生やした男が若者たちと話しているのをよく見かけます。お金もない無職の若者ばかりです。息子も飛行機代どころか食事代もない。アルカイダがお金を出したと思います」と話す。
EU(欧州共同体)によると、欧州全体から約2000人がシリアへ行っているという。フランスは約700人と最も多い。フランス国家警察の担当者は「イラク戦争のころの10倍になった」という。EUのテロ対策担当者は「EUのパスポートを持っている彼らはどこへでも自由に行ける。アルカイダには絶好の人材だ」と危機感を募らせる。
池内恵・東大准教授は「フランスでは郊外問題と呼ばれています。都市の郊外に職のない若者が多くいるんです。目的のない彼らに身を投じる場所と機会を与えて、ジハード(イスラム聖戦)のイデオロギーが付け入っている」と説明する。
中東各国のスンニ派聖職者が資金集め
レバノンのトリポリで、シリアに戦闘員を送り込んでいるアルカイダのグループに接触した。入り組んだ建物には公然と黒いアルカイダの旗、銃を持った歩哨、監視カメラ…。世界中から1万人以上を集めたといわれる。司令官は「中東だけでなく、世界にまたがる巨大なイスラム国家を築くんだ」と主張した。グループは昨年、「イラクとシリアのイスラム国」を宣言して、シリア北部の広範な地域の統治を始めた。貧しい人には食料を与え、学校も作ってコーランを教えている。従わないものは弾圧・拘束する。
指導者はイラクで数々のテロをやって手配中のアブバクル・バグダディである。「イスラム国こそが世界を導く。公平・平等な社会だ」とネットで説く。活発な活動を支えているのは潤沢な資金だ。その供給源のひとつ、クエートのスンニ派の聖職者は3年間で12億円の寄付を集めたという。
米軍がイラクから撤退すれば、アルカイダの抑え込みはますますむずかしくなる。米軍の元テロ担当者は「アメリカ市民はいま直接の利害がない限り関心を示さない。アルカイダの脅威にさらされ続けるだろう」という。イラク人、シリア人がどれだけ死のうと、米国はもう動かない。アルカイダにはますます好都合だ。
池内准教授「アルカイダは9・11のあと壊滅したが、イデオロギーは残りました。共通の黒い旗を立てて、小規模の戦闘集団がテロをやり、ネットに載せるとアルカイダとして追認される形です。西欧が対決の意志を見せることが第一歩です」
やれやれ話は振り出しではないか。多国籍軍の兵士も含めて、死んだ者はますます浮かばれない。しかも、テロの脅威は高まっている。シリア処理に失敗したアメリカ、ロシア、中国の罪は大きいぞ。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2014年4月24日放送「復活するアルカイダ~テロへ向かう世界の若者たち~」)