緩和された「健康基準」 狙いは医療費抑制のため『病人』減らし
安倍首相は観桜会で「給料の 上がりし春は 八重桜」と詠んだそうだが、オバマ大統領のTPPに対する厳しさを直に知って、今ごろは震えているのではないか。きのう24日(2014年4月)、安倍首相批判では第一人者の斎藤貴男さんと話した。彼にいわせれば、安倍首相が辞めるとすれば、これほど尽くしているアメリカにつれなくされたり、国民が自分のいうことを聞かなくなったときで、以前と同じように椅子を放り投げてしまうのではないか。そろそろそんな雰囲気も出てきたようだ。
ところで、私事で恐縮だが、長年、血糖値が高く定期的に医者に通って計ってもらっている。先月行ったら主治医から、今度、基準値が変わったといわれた。HbA1c(検査の日から1~2か月前の血糖の状態を推定できる値。正常値は4.3~5.8%で、6.1%以上であればほぼ糖尿病型と判断してよいことになっている)が国際的に使用されている新しいHbA1c(NGSP)値になるというのだ。これまでのHbA1c(JDS)値と比べておよそ0.4%高くなるが心配しないようにといわれた。
高くなっても心配ないというのはなんだか変な気持ちだが、『週刊ポストが』そのへんの「事情」を巻頭特集で説明してくれている。週刊ポストによれば、これまでは上(収縮期血圧)が130以上、下(拡張期血圧)が85以上なら「血圧が高い」と診断されてきたが、今回公表された新基準値では大幅に緩和され、上は147まで、下は94までは正常値であると変更されるという。
最も従来の数字とかけ離れているのは、いわゆる「悪玉コレステロール」とされてきたLDLコレステロールで、現基準では120未満が正常とされたが、新基準では男性の上限が178、高齢女性ではなんと190にまで拡大されたそうだ。この調査は、日本人間ドック学会と健康保険組合連合会(健保連)が立ち上げた共同研究事業で、約150万人に及ぶ人間ドック検診受診者の血液検査データを使って健康基準を導き出したそうである。
そうなると、新基準で高血圧とされる148以上の人は約8%だから、異常と診断される人は約22%減ることになるという。現在の30~80歳男女の人口から考えると、高血圧の「病人」は2474万人から660万近くへと1800万人も減る計算になるそうだ。
また、悪玉コレステロールの新基準は男女別になっているため、30~80歳の男性で考えると、従来の120以上の基準に引っかかるのは全体の約52%だが、新基準の179以上の人はたったの約4%しかいないので、ほとんどの人が引っかからないことになる。
大櫛陽一東海大学名誉教授はこう話す。<「この基準が臨床に適用されれば、コレステロールを下げる薬の売り上げは激減し製薬会社には大ダメージとなる。さらに、通院する人も減るため、薬に頼る多くの開業医が潰れることになるでしょう」>
なぜ急にこんなことになるのだろうか。医者や製薬会社にとって痛手になることをできるのはお上しかいない。その真意は「医療費の抑制」であろう。基準値を緩和して「健康な人」を増やすのは世界的な傾向だそうだ。サラリーマンが加入する健康保険組合の全国組織である健保連は、近年の医療費の増加によって収入を上回る医療費負担(支出)を強いられ、財政危機に瀕している。
<「基準の緩和には、増え続ける医療費に悲鳴を上げていた健保連の、医療費を何としてでも抑えたいという狙いが透けて見えます。基準値が緩和されれば、『病人』は減り、医療費支出も抑えられますから。
近年、厚労省が健康増進法を作ったり、予防医療を推進したり、軽度の病気だと医者にかかることなく自分で市販薬を買って治療するセルフメディケーションを打ち出したりしているのも、税金から支出する医療費削減が目的。今回の人間ドック学会の調査もその流れを受けていると考えられます」(医療経済ジャーナリスト・室井一辰氏)>
医療費を抑制するために基準値を大幅に緩和するというが、その基準は信用に値するのであろうか。メタボ基準値もそうだったが、自分たちの都合でころころ基準値を変えられたのでは、こちとら『病人』は安心していられないではないか。この問題は、海外の例を含めてもっと突っ込んで取材してもらいたいものである。