「レジリエンス」なんて聞いたことがない。「逆境力」と訳すそうだ。折れそうな心を立て直す力だという。「現代社会に一番必要なもの」とまでいう人がいる。育てるための研究と実践が始まっていた。
注目されたのは1970年代だという。第2次大戦中のホロコーストで孤児になった人たちは、トラウマから生きる力を持てない人と、乗り越えて幸せをつかむ人にわかれた。後者に共通するのが柔軟でポジティブな思考だった。
「けん玉挑戦テスト」すぐあきらめてしまう人、楽しくやり続ける人…どこが違うのか?
玉川学園大学の小玉正博教授の実験は「けん玉」だ。課題を与えて実践させる。20分であきらめてしまう人たちは最初からあきらめタイプが多い。「自尊感情」が弱く自分を過小評価し、また感情の起伏が激しいという。一見うまくいってる被験者の男性は、玉がうまく臼に乗るとそのつどにんまりする。モニターで見ていた小玉教授は「反応が強すぎる。長持ちしません。一喜一憂で消耗してしまう」と見る。言葉通り、男性は20分で白旗をあげた。
一方、1時間以上も続ける人たちは少しづつ成長しているという「自己効力感」と「いつかできるだろう」という「楽観」がある。これが重要らしい。「心の強さは、鋼のような強さではなく、前向きで不安に負けないしなやかさ」と話す。
国立精神・神経医療研究センターの大野裕さんは、けん玉の一喜一憂を「目の前のできるできないにとらわれて、自分が何をしているかが見えなくなる。大事なのは自分を客観的に考えること。そして人間関係だ」という。レジリエンスは「人間関係」の上に「楽観性」「自己効力感」「自尊感情」「感情のコントロール」を重ねて培われるものらしい。
米・フィラデルフィアの大手製薬会社グラクソ・スミスクライン社では、8年前からレジリエンスを実践している。ストレッチに似たエキササイズやランニングマシンも使うが、メインは食事だ。血液中のブドウ糖が不足すると、集中力が落ち感情の起伏が激しくなる。少量を頻繁に食べるのがいいと、3時間おきの食事を実践した。参加した1万人の8割がメンタルヘルスが改善して、仕事の効率があがったという。
ウソのように明るく積極的になった営業マン
愛知・瀬戸市のセラミック製造「ヤマキ電器」も消極的な社員の意欲の改善にと、講師を招いてレジリエンスの研修をしていた。「逆境グラフ」というのを作る。過去の心の落ち込みをグラフに書かせ、底のときに何があったか、どう立ち直ったかを考える。
営業マンの伊藤正人さんはもともと技術者で、営業成績が上がらず、「むいていないんじゃないか」と悩んでいた。グラフを作ってみると、妻の入院と父親の死が重なったときがどん底だった。講師は「どう回復したかを思い出して」「この逆境に較べれば今の苦境なんか」と語りかける。家族の支えを再認識して立ち直った。
先日、参加した展示会で伊藤さんは30を越す企業にアプローチした。それまで飛び込み営業に後ずさりする方だったのがウソのようだ。「小さな一歩を踏み出しかかな」という。表情も明るく変わっていた。
日米の例を見ていて、「ホントかよ」といいたくなる。大野氏は逆境にある人にどうアドバイスできるかを考えることもレジリエンスには有効だという。声をかけ合うことで、両方がプラスになる。愚痴をこぼす、困ったことを話す、笑う…。いまはウエブという方法もあると提案する。
レジリエンスなんて昔なら「余計なお世話」の類いだったろう。それだけ人間が弱くなったのか。悩む人が多すぎるのか。現代社会はつくづく手間がかかる。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2014年4月17日放送「『折れない心』の育て方~「レジリエンス」を知っていますか?~」)