「天井落下をどう防ぐか」というクローズアップ現代の放送タイトルを見て、なぜいま「天井」なのかと思った人も少なくないだろう。どうやらこの4月(2014年)から天井の規制がはじまったかららしい。
2000か所で「吊天井」落下
2011年の東日本大震災では2000か所の建物の天井が落下し、少なくとも5人が死亡した。こうした天井は「吊天井」で、住宅、オフィス、商業施設などの天井は大抵これだそうだ。つくりは、ロープ風の線で金属の基本構造を上から吊り、そこに平均で1平方メートルあたり10キロという重さの天井板がクリップ(留め具)で留められている。従って振動に弱く、大地震ではクリップが外れて天井が落ちる危険性が強い。平時に落ちるケースもあり、地震に湿気などの要因が重なったことが原因らしいそうだ。
しかし、「天井」は建物の構造体とは別の一種のパーティションのようなものと見なされていたため、耐震基準などはいっさいなしで野放しだった。それが震災を機に危険性が周知され、基準が設けられ、4月から施行された。今後、新築、増築する一定以上の広さの建物には、クリップを「ネジ留め」するといった内容である。
事故が起きれば規制が求められるが、規制すれば、企業の自由なカネ儲けの足かせになって競争力が失われるといった批判も出る。クローズアップ現代でも「新基準に合わせると工期が長引き、人件費が大幅にかさむ」(キャプション)といったことが危惧された。
シネコン担当者「新基準にすると館外に音が漏れるんです」
天井が問題なら、天井をなくせばいいじゃないと思う向きもあるかもしれない。実際、文科省は学校体育館などの天井の撤去を進めているという。ただ、天井問題に詳しい川口健一・東京大学生産技術研究所教授は、天井には見栄えを良くするほかに、断熱、音響(防音)、照明を効果的にするなどの機能があり、天井をなくせば「空間のクオリティー」も失われるとし、「やわらかくて軽い素材を開発し、快適で安全でウツクしい空間をつくる」ことが重要だと言う。
この新基準で困ってるのが映画館業界だそうだ。厚い天井板で館を密閉することで音漏れを防いできたが、新基準では(揺れを逃がすためか)壁と天井の間に隙間をつくらなければいけなくなった。シネコンの建設担当者は「映画界にとって、ある意味、ショッキングだ」と頭を抱える。この担当者は新基準と防音の両立を模索していくというが、今後、多スクリーンを擁するシネコンやウルサい映画館建設の立地などに影響が出てくるのかもしれない。
ボンド柳生
*NHKクローズアップ現代(2014年4月8日放送「まさかの天井落下をどう防ぐ」)