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50年前に生き別れた息子を探すヒューマンストーリーである。間違いなく泣ける!と映画館に足を運んだところ、期待を超える良作でした。主人公は年老いたアイルランド人女性・フィロミナと、外交絡みのネタで失脚したジャーナリストのマーティンだ。
フィロミナは10代のころ、未婚の妊娠を理由に勘当され修道院に預けられた。だが、その修道院は母親たちの駆け込み寺となっていたが、子どもを人質に母親を働かせ、さらに子供を金持ちに売り飛ばす悪徳組織の顔を持っていた。フィロミナも息子アンソニーをわずか3歳足らずで奪われ、どこかへ養子に出されてしまった。
マーティンは記者としての嗅覚で修道院の裏の顔に気づき、調査を進めていく。かつてロシア外交を専門にした政治記者だったマーティンは、いわゆる「ヒューマンストーリー」を三文記事と馬鹿にしてきた。新境地を開こうと、フィロミナの息子探し記事に着手してもその思いは変わらない。
だから、アンソニーを探す旅でも二人はどうにも噛み合わない。フィロミナは修道院にひどい仕打ちを受けても「悪意はなかったのだと信じたい」と語り、初めてのビジネスクラスや高級ホテルにいちいち感激する。見ようによってはチャーミングな彼女だが、マーティンからしてみると「労働階級の愚鈍な老女」でしかない。
どうにか二人はアンソニーの消息にたどりつく。しかし、ここでハッピーエンドを迎えないのが、単なる人探し映画でないところなのである。アンソニーの足跡は二人に修道院の罪を浮かび上がらせる。
美しくて悲しいアイルランド田舎風景
テンポよく進んでいく物語、紆余曲折を経ながら理解しあっていく二人、そして問いかけられる「赦しとは」というテーマが重い。加えて、取材対象者とジャーナリストの葛藤が話を複雑にする。騙されてもなお相手を赦し、自分の罪に向き合う。相手が悪いと声高に叫ぶほうが得とされる世の中で、「赦す」ことに意味はあるのか。
ヒューマンストーリーに社会派サスペンスの要素を入れているのに、ちょっとしたギャグを交えて全体を軽妙に進める運びが上手い。美しくもさびしいアイルランドの田舎の風景も光っている。紅葉の季節から雪の季節まで、心象風景と相まって変わっていく四季の変化が楽しい。
立派にサクセスした息子、周りの人々、奪われた時間、赦されざる罪。天秤の向こうに何を置けばいいのか。思い悩む要素が盛りだくさんなのだけれど、複雑に要素が絡み合い、登場人物の葛藤が際立つ。久しぶりに「良かった」と勧められる作品でした。
(ばんぶぅ)
おススメ度☆☆☆☆