北朝鮮に娘を拉致された横田滋・早紀江夫妻がモンゴル・ウランバートルで孫娘のキム・ウンギョンさん(26)=幼名キム・へギョン=と初めて面会した。ウンギョンさんとその夫、横田夫妻にとっては曾孫に当たる生後10か月前後の女の子も一緒だった。
横田夫妻によると「曾孫はめぐみの小さいころとよく似ている」という。ただ、めぐみさんの安否はいぜん不明で、夫妻は「面会後もめぐみの生存への確信はまったく揺るいでいない」と話している。
第三国のモンゴルでの対面受入れ
北朝鮮に拉致された横田めぐみさんに娘がいることが分かったのは2002年。北朝鮮側は自国での面会を提案したが、横田夫妻は面会で孫娘から「母めぐみは死んだ」と伝えられ、それが既成事実となって幕引きが行なわれるのを恐れて面会を拒否してきた。それが12年を経てようやく実現したのは、日本政府が第三国のモンゴルでの面会を提案したのに対し、北朝鮮もこれに同意したからだ。
横田夫妻は面会後、次のような直筆のコメント発表している。「この一つのことがきっかけになって、日朝会談が何とかよく進められ、全被害者救出になることを切望しています」
小出しにして政治的駆け引き
それにしても相変わらずの北朝鮮の狡猾なやり口に柿崎明二(共同通信編集委員)がこう言って憤った。「横田夫妻はかなり苦しい決断をしたんだと思います。もともと拉致された人の娘なので、日本で自由に会わせてもいいはず。こうやって(北朝鮮が)小出しにして、政治的に利用することを即刻やめて、全員を帰すというのがあるべき姿ですよ。そこを押えておかないで、会ってよかったと見てしまうのはいかがなものか」
やくみつる(漫画家)もこう発言する。「ゆめゆめ、これが落としどころみたいに用いられてはたまったものではない。事態を動かそうとするための端緒になればという横田茂さんの趣旨は分かる気がする。孫娘も母親の消息を知らないとなると、面会は同じ親子を裂かれた者同士の位置にあった」
北朝鮮が歩み寄ってきた狙いは何なのか。「コリアレポート」の辺真一編集長はこう解説する。「日韓に対しカードを切って、2国間協議に応じないアメリカを引っ張り出そうという外交的な狙いが一つ。もう一つは拉致問題を餌に制裁の一部を日本に緩和させる狙いがある。チャーター便の乗り入れを緩和させ、日本から観光客を誘致したいのだろうし、小泉政権時代に約束した食糧や衣料品の人道支援を取り付けたいのだろう」