演技を終えた浅田真央選手は涙で顔をゆがめた。万感の思いだったろう。けさ21日(2014年2月)未明に行われたフィギュアスケート女子フリーで、浅田はほぼ完璧な滑りで自己ベストを出した。しかし、ショートプログラムでの失敗は重かった。それでも6位入賞をはたした。
前日とは別人のようなジャンプ、スピン、ステップで自己ベスト
司会の小倉智昭がソチから「真央ちゃんの涙に競技会場にいた日本人は泣いた。わたしも涙が止まらなかった。それほど彼女の気持ちが出た素晴らしい演技でした」と興奮冷めやらぬ様子で伝えた。浅田は試合後、「この試合が最後だと思って、悔いの残らないようにと滑った」と話した。ふっきれたというのだろうか、ジャンプをことごとく成功させ、スピンもステップも自信にあふれていた。スピードもあった。
SPで16位という、おそらく彼女が経験したことのない成績から、一気に6位につけるのがいかに凄いことか。オリンピックで10人抜きはおそらく初めてだ。浅田は6種類の3回転ジャンプをすべて入れて8回飛んだ(2つは回転不足と判定)。技術点では3人のメダリストを上回っていた。彼女自身いかに悔しかったか、涙がすべてを物語っていた。
表彰台のトップには、SPで2位だったロシアのA・ソトニコワが立った。2位の韓国のキム・ヨナ、3位のイタリアのカロリーナ・コストナーは、ともにSP、フリーともにノーミスの高得点だったが、ソトニコワはさらに上をいった。
日本勢は浅田6位、鈴木明子8位、村上佳奈子12位。高レベルの闘いは、浅田が順調にSPを乗り切っていたとしても、メダル争いは熾烈だったにちがいない。
浅田と村上は下位グループで早い時間に滑った。小倉は「早いグループだと高得点が出にくいんですって。遅いグループであの滑りならもっと高得点になったかもしれない」と残念がったが、こればかりはいってもせんないことだ。
浅田はこれを最後に「引退」をほのめかしている。あらためて「今後」を問われると、「またじっくり考えます」とだけ答えた。
小倉「世界フィギュア(日本開催)に出るんでしょう」
「また見事にひっくり返っちゃいましたね」
その東京で妙なニュースが流れていた。6年後の東京オリンピックの組織委会長である森喜朗・元首相の「失言」だ。講演会で浅田のSPをこういったのだ。「見事にひっくり返っちゃいましたね。あの子、大事な時には必ず転ぶんですよね。開会式の翌日に団体戦がありま してね。日本は出なきゃよかったんです。ひょっとすると3位になれるかもしれないという淡い気持ちで浅田さんを出したんですが、また見事にひっくり返っちゃいまして…惨敗を喫した。その傷が浅田さんに残っていたとしたら、もの凄くかわいそうな話。負けるとわかっている団体戦に浅田さんを出して恥をかかせることはなかった」
他にも、「リード兄妹(アイスダンス)はアメリカでは勝てないから、国籍を変えてきた」などの問題発言があって、新聞・テレビが一斉に伝えた。スポーツ紙はとくに大きい。
深澤真紀(コラムニスト)「この方に東京オリンピックをまかせていいのかしら」
ショーン・マクアードル川上(経営コンサルタント)「非難にも、はっぱをかけているようにも聞こえるが、言葉が伝わった時にどう受け取られるか、想像力を働かせてほしいですね」
ソチで小倉が怒っていた「必ず転ぶといったって、彼女はトリプル・アクセルという高い演技を求めて頑張ってきた。あのいい方は納得いかない。悲しい」
その想像力がないから、首相時代のニュースのほとんど失言だったという珍しい人なのだ。サービス精神旺盛で口が軽いから、ペラペラとまだいくらでもやるだろう。