『世界に一つのプレイブック』『ザ・ファイター』のデビッド・O・ラッセル監督が、1970年代アメリカで実際にあった収賄事件「アブスキャム事件」を映画化した。自分の監督作でアカデミー賞を受賞させたクリスチャン・ベールやジェニファー・ローレンスを起用し、本年度のアカデミー賞にも10部門ノミネートと旋風を巻き起こしている。
簡単なおとり捜査のはずだったが…
詐欺師アーヴィン(クリスチャン・ベイル)と彼のビジネスパートナーであり愛人のシドニー(エイミー・アダムス)は、FBI捜査官リッチー(ブラッドリー・クーパー)に逮捕されるが、無罪放免を条件におとり捜査への協力を持ちかけられる。はじめは同業者4人を捕まえるだけの小さな計画だったが、出世欲にかられたリッチーの暴走で、カジノ利権に群がる政治家やマフィアも巻き込む大計画に発展する。
アーヴィンは大きくなっていく計画に戸惑いながらも標的のカーマイン市長(ジェレミー・レナー)に食い込み、おとり捜査は成功するかに思われた。ところが、シドニーへの嫉妬にかられたアーヴィンの妻ロザリン(ジェニファー・ローレンス)が捜査を邪魔するようになり、事態は予期せぬ方向へと進み始める。
ジェニファー・ローレンス「中年女の色気」好演
さすがに、どの役者も達者なものだが、とくにすばらしいのはロザリン役を演じたジェニファー・ローレンスだ。ロザリンは事件当時50歳だが、23歳のジェニファーは中年女性独特の色気を上手に演じている。嫉妬心にかられて騒動を大きくし、最後にアーヴィンに事件収束の手がかりをつかませるロザリンを中心に映画は引っ張られていく。
クリスチャン・ベールは『ザ・ファイター』ではガリガリの薬物中毒ボクサーを演じ、この映画ではブヨブヨの体に頭の禿げ上がった詐欺師を演じている。役者魂には毎度の如く脱帽だ。マフィアのボス役で出演しているロバート・デニーロも存在感たっぷり。
人間味溢れるキャラクターたちは、さまざまな思いと打算で突き進み騒動を大きくしていく。その様は笑えるんだけど、どこか切ない。愚かだけど憎めない人間の可笑しさを見事に描いた傑作である。
野崎芳史
おススメ度☆☆☆☆☆