ソチ五輪のノルディックスキー複合個人ノーマルヒルで、渡部暁斗選手(25)が銀メダルに輝いた。ノルディック複合でのメダルは1994年のリレハンメル五輪以来だ。かつて日本のお家芸といわれたが、ルール改正によって苦汁をなめてきただけに、20年来の雪辱を果たす快挙となった。
日本苦手の距離克服した「エコ走法」
ノルディック複合は前半のジャンプと後半の距離(10キロ)で争う競技だが、日本勢は渡部が所属する北野建設(長野市)スキー部のゼネラルマネジャー荻原健司に代表されるように、ジャンプでリードし、距離で逃げ切るスタイルだった。リレハンメルでは団体では金、個人で河野孝典が銀メダルを獲得したが、その後、国際スキー連盟は前半のジャンプのポイントの比重を下げ、距離を重視するルール改正を行ってきた。このため、体力で勝る外国勢に有利といわれ、日本勢はメダルから遠ざかっていた。
今回の渡部のメダル獲得の要因は、ジャンプでポイントを稼いだことに加え、課題とされた距離対策で「エコ走法」を身に付けたことが大きいという。東海大学スキー部の森敏コーチによると、エコ走法のポイントは「スキー板の中心に重心が来るように滑ること」といい、そうすることによってスキーの滑走性が増し、その分、むだな体力の消耗を防ぎ、ラストスパートまでスタミナを温存できるという。それともうひとつ、雪の溶け具合とワックスのマッチが絶妙で、スキー板が滑りやすい状況だったことも幸いした。
ジャンプ1位のドイツ・フレンツェルとスタート前に話し合い
渡部は前半のジャンプが終わった時点で、距離ではジャンプ1位のエリック・フレンツェル(ドイツ)と協力しながら2人で逃げて優勝争いをしたいといっていたが、レースはその通りの展開になった。
キャスターのテリー伊藤が現地の田中毅アナに聞く。「1位の選手と話し合いながら滑るといっていましたが、あれはどういうことですか」
田中「マラソンでも1人で走るより2人以上で走ることでお互いに引っ張り合って、いいペースで走ることができますよね」
司会の加藤浩次「暗黙の了解ということですか」
田中「いいえ、スタート前に2人で話し合いをしたということです。2人で1位、2位を確定させようという作戦だったようです」
テリー「とすると、どこから真剣勝負だったのでしょうか」
田中「ちょっとわかりませんが、残り1キロのところで渡部選手がスパートをかけたあたりでしょうか」
これまでいろんな大会で一緒に戦ってきた顔馴染なので、国は違っても選手同士はライバルであり、友人でもあるという意識があるのかも知れない。
競技はまだラージヒルと団体が残っている。渡部も「今度こそ金メダルを」と決意を語っていた。