人件費が安く、労働条件の規制が緩い途上国で生産した商品を消費国で売り、利益をあげるグローバル企業の動きが厳しい視線に晒されている。国際人権団体は「現代の奴隷労働」と非難を強め、国連も「改善する責任はグローバル企業側にある」とする指針を作成した。
グローバル企業の無節操な行動に対する包囲網は年々強まり、経営を揺るがしかねないところまで来ている。国際的なNGO団体による監視活動も活発化している。低賃金で長時間働かせ、安全対策を怠った劣悪な職場環境、さらに15歳未満の児童労働など、人権を無視したグローバル企業に対し、国際的な不買運動に発展する可能性すら出てきた。
労働時間330時間・休みは月2日!製品の8割を日本が輸入
バングラディシュで昨年(2013年)、1000人を超える死者を出した工場崩壊事故があった。安全対策が不十分だったことから起きた事故だが、ここで作られていたのは海外ブランドの製品だった。この事故を受け、NGO団体は昨年11月にバングラディシュの工場労働者をニューヨークに招き、過酷な労働を黙認している企業の責任を追及した。バングラディシュの過酷な工場の実態を告発するために作られたビデオを公開し、不買運動を呼びかけるなど、途上国の労働者の人権を守らないグローバル企業を糾弾した。
NGO団体がいま最も問題している国のひとつがミヤンマーだ。ヤンゴンにある縫製工場では33人の若い女性が勤務しているが、全員が工場に寝泊りしていて、休みは月2回だけ。食事も工場内ですます。月の労働時間は330時間以上で国際基準のおよそ2倍に達する。工員の一人は「家には月に1回だけ帰れます。出来高制なので頑張って働くしかないんです」という。
製品の8割を日本に輸出しているという靴工場でNGO団体がとくに問題視しているのは児童労働だ。ここで14歳のときから働いているという少女はこう話す。
「私たちの工場は13歳の子どももいます。小さい子どもが20人ぐらいいるんです。本来なら勉強しなければならない年頃ですが、生活のために働かなければならないんです」
投資家「人権軽視の企業には出資しない」
こうした批判の背景にあるのはなんなのか。日本総研・創発戦略センターの足達英一郎理事はこう解説する。「東西冷戦が終わり、世界が1つのマーケットになりました。生産も国境を越えてどこでもできます。その結果、コストが至上命題になり、立場の弱い人、立場の弱い企業にしわ寄せが蓄積しているんです。
最初は、途上国の皆さんに今までなかった収入源が得られたと喜ばれたが、インターネットの普及で、隣の工場、あるいは隣の国の工場はどうか、先進国の労働者は同じ仕事でいくらもらっているのか、情報が瞬く間に広がります。それが人権意識の高まりで、われわれは不平等だということに繋がっているのだと思いますね」
国谷裕子キャスター「人権問題に関して、日本企業の対応は遅れているといわれていますが…」
足達理事「たとえば、異なる宗教を信じる人への祈りの場所をどうするのか。そんな事も人権尊重の要素の一つとして問われるようになってきています。日本企業はまず問題は何なのかということを理解して、欧米企業のスタンダードを参照しながら、どこまでコストを掛けて取り組めばいいのか模索しているというのが実態ではないでしょうか」
日本企業にも現地労働者の人権問題に対し積極的に取り組んでいる企業もある。カンボジアの工場に生産を委託している日本の大手スポーツ用品メーカーの「アシックス」だ。アシックスは定期的に監査チームを7社ある委託先の工場に派遣し、自社が求める労働環境の基準を満たしているかチェックしている。チェック項目は照明や換気、火災への対策など240項目にわたる。児童労働防止のために、従業員を採用する際は複数の証明書の提示を求めるよう指導している。この取り組みついて、尾山基社長は「社会からノーと言われたブランドはなかなか生き返るのは大変ですから」という。
しかし、日本企業は海外進出を加速している割には、ここまで対応している企業はまだ少ないようだ。国谷は「コストが大変掛かる時代になったと戦々恐々として向き合っている企業もいるかもしれませんね」という。
足達理事「投資家がどの企業に投資するか考えるとき、国際基準で人権配慮がきちんとできているか調べて決めている状況があります。安心・安全を考え相対的に国内のほうが安いという例がこれから出てくるかもしれません」
モンブラン
*NHKクローズアップ現代(2014年1月29日放送「グローバル企業の責任はどこに~海外で高まる人権リスク~」)