責任ある立場の人が記者会見でいったん口にしたことは、そう簡単に取り消すことはできない。言った本人が取り消したくなる発言こそ、ニュース価値があるのだ。NHK新会長の籾井勝人氏が25日(2014年1月)の就任会見で、従軍慰安婦について「戦争をしているどこの国にもあった」などと発言、すぐに取り消すといったが、あとの祭りだった。
「韓国が日本だけが強制連行をしたみたいなことを言っているから話がややこしい」
司会の小倉智昭が「籾井会長の発言が世界的にも波紋を広げています。なんでこんな発言をしたのでしょうか」といって、25日の記者会見のやり取りの場面を流した。
記者が「慰安婦問題について会長自身はどのようにお考えでしょうか」と質問すると、籾井は逡巡するように首を傾げながら、「それは、ちょっと、コメントを控えてはダメですか」と質問した記者の方を向きながら言ったあと、「まあ、このへんの問題はみなさん、良くご存じでしょう。どこの国にもあったことですよね。違います?」と答えた。
続いて記者が「どこの国でもというと、すべての国と取られるんですけど」と聞くと、籾井は「いやいや、それは戦争地域ということですよ」と言い直し、記者に「(戦争地域)には、どこでもあったと?」と突っ込まれた。籾井は「あったと思いますね、僕は」といい、身振り手振りをまじえながら次第に能弁になり、「慰安婦そのものがいいか悪いかと言われれば、今のモラルでは悪いんです。ねっ。で、じゃあ、従軍慰安婦はどうだったかと言われると、これはその時の現実としてあったということなんですよ。じゃあ、ドイツにありませんでしたか。フランスにありませんでしたか」と畳みかける。
そして、「ここまで言うのは会長としては言い過ぎですから、会長の職はさておき、『さておき』ですよ、ここは忘れないでくださいね」と言って、「韓国が日本だけが強制連行をしたみたいなことを言っているから話がややこしいんです」と続けた。
籾井は個人的見解として持論を語ったつもりだろうが、記者から「NHK会長会見の場」だと指摘されると、「(発言を)取り消します」。だが、記者は「いやいや、取り消せないないですよ、もう、おっしゃったら」とにべもなかった。
「受信料で成り立つNHKの会長の就任会見としては、あまりにも迂闊」
小倉はこう話す。「われわれも放送で取り消したいなと思うことはありますが…。ただ、それよりも、きちっとお詫びすることですよね。実際、私たち、自分の発言を取り消すということは今までなかったと思います。受信料で成り立つNHKの会長の就任会見の発言としては、あまりにも迂闊だったと思いますけどね。まあ、記者が質問したのも意地が悪いとは言えるんですが。ノーコメンではいけませんかといっていたのだから、ノーコメントにすれば良かったんでしょうけどね。さあ、次です」
さっさと話題を変えた。