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主人公ローレは14歳だ。彼女を筆頭に、妹、双子の弟、末の赤ん坊の5人きょうだいは優しい両親と幸せな日々を送っていた。「あの日」までは…。第二次世界大戦終結と同時に、ナチス幹部だった両親は全てを失った。住んでいた豪邸を逃れ農家の居候として潜む。銀食器に宝飾品など、かつて生活を彩った金品を物々交換に出してやっとその日の食べ物を手に入る。過酷な生活からまず父が姿を消した。始終気が立った様子だった母も出頭を命じられる。ローレらに残された言葉は2つ。「おばあちゃんの家に行くのよ」「誇りを失わないで」。祖母の家まで約900キロの旅が始まった。
「ユダヤ青年」に窮地救われ困惑
物々交換を断られ、「ヒトラーの子ども」と後ろ指を指される。言いたいことがあるときっと相手をにらみつける。それがローレなりの「誇り」なのかもしれないが、何かを言いたげな視線は、相手に不気味な、あるいはふてぶてしい印象を与える。汽車代はどうにかあるが、食料も寝床もない。温室育ちのローレにはストリートの知恵もない。気丈にふるまう姿が痛々しい。死体が隣の部屋にある廃墟で寝た。汚れた公衆浴場に行った。ナチスの党員だった老婆に騙された。壁張りの新聞でユダヤ人を虐殺する父の写真を見つけてしまった。信じていた世界がガラガラと崩れ落ちる。無知を恥じる涙なのか、騙されていたという憤りの涙なのか。あまりに悲愴で、目を背けたくなる。
ローレを悩ますのは、旅路に加わった謎の青年トーマスの存在だった。身分証の提示を求められて困っていたとき、通りすがりに口裏を合わせて救ってくれた。食料も調達してくれる。弟も妹もこのトーマスになついている。しかし、トーマスはユダヤ人だ。嫌悪し排除してきた民族に助けられている自分とは何なのか。困惑するローレとトーマスの不思議な関係は、緊張感を保ったまま進んでいく。