巨大地震に耐えられないホテルや店舗の閉鎖、解体が続いている。昨年11月(2013年)の耐震改修促進法の改正で、公共性の高い大型施設に耐震診断が義務づけられ、結果が公表されることになったが、改修費用を出せない建物が次々に追い込まれているのだ。しかし、補強しなければ2年後に未改修として名前を公表される。ビルを救う妙手はあるのか。
耐震診断クリアするためには億単位のカネ
愛媛県の築40年の宿泊施設は耐震診断で強度不足とされた。3億円をかけて補強をしたが、窓に鉄パイプの筋交いが入って眺望がそこなわれ、部屋も狭くなった。施設は「客の安全が第一だが、億単位の費用も収益には結びつかない。客の満足度も下がった」と嘆く。
国土交通省は改修費の11.5%を補助する制度を作った。自治体が加わると最高で40%にまでなるが、制度のある自治体はまだわずかだ。私有財産への税金投入に抵抗があり、自費で改修した人と不公平になる可能性があるからだ。
青森の温泉地で昨年11月、創業100年の老舗旅館が閉館した。年間3万人という県内有数の施設だったが、築45年の建物が震度6で倒壊の危険があると診断された。青森県には補助制度がない。億単位の改修はできず、廃業せざるを得なかった。従業員20人も職を失った。
補助制度のある和歌山県白浜町のホテルは県職員と話し合っていた。改修費は3億円超だが、国と県の助成のほか、災害時の避難拠点になると助成は合わせて7割になる。ホテルの負担は8829万円。それでもきつい。改修が収益につながるかどうかも不安だ。
東大大学院の浅見泰司教授は「診断結果は2年後には公表されます。待ったなしのプレッシャーです。どこも財政的にはきびしいだろうが、診断と改修の情報は利用者にもオーナーにも、また防災拠点づくりにも役に立つ」という。
東京都は建物使いながらワンフロアづつ改修すれば補助金
耐震基準は1981年に新しくなった。阪神大震災で旧基準の建物の7割が倒壊・損傷したため、耐震改修促進法が作られた。自主的な診断・補強をうながしたのだが、改修は進まない。巨大地震の不安が強まる中、強制に踏み切ったのが先の法改正だった。決断を迫られているのは旧基準の建物である。
東京都には基準を満たさない大型建築が3000以上ある。工事のためにテナントが出てしまうと賃料が入らず、所有者の負担は二重になる。そこで、東京都は「段階的改修」を打ち出した。ワンフロアづつ改修して、そのつど補助を出す。ある5階建てビルは4年かけて2階までやった。3階から上はこれからだ。オーナーは「何回かに分ければ、賃料収入を維持しながらだからやっていける」という。だれのアイデアだろう。東京都もやるもんだ。
補助に頼らず発想の転換で切り抜けた例もあった。静岡・浜松市の築42年のホテルは13階建てだった。その4階から上を取り壊してしまったのだ。重量が減って耐震性は大きくあがった。「減築」というのだそうだ。
見積もりでは、全面改修だと39億円、補強だと16億円だったが、減築で3億円で済んだ。ナイトクラブだったところを露天風呂の温泉施設に改装して、日帰り入浴客を引きつけている。ビジネスモデルまで変えてしまったわけだ。
ただ、こうした情報はまだ行き渡っていない。浅見教授は「相場とか、こういうやりかたがあるとか、デザイン情報などを集約して流す必要があります。耐震性があがれば資産価値もあがる。固定資産税も増えるが、そういう部分には減税とか補助とかもありうる」という。
阪神大震災ではビルがウソのように倒壊し、丸ごとコテンと倒れ、途中の階がつぶれて傾いだ。あれから19年経ったが、なお急がないといけない。とにかく起ってからでは遅いのだから。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2014年1月16日放送「進むか大型建築物の耐震化~『耐震改修促進法』改正の波紋~」)