舗装路はもちろん、これまで車いすには苦手とされた砂利道もスイスイと進む新型の車いすがある。この車いす、企業の垣根を越えたIT技術などを駆使してつながった若い感性が合流して生み出したものだ。キャスターの国谷裕子は「新興国の躍進により日本やアメリカなど先進国は追い上げられ、これまでの企業による新規事業開発もそのリスクが変化しつつあります。閉塞感漂う日本の活路をいかに切り開くのか。キーワードは、従来の組織や地域の枠組みを超えた新しいつながり。人と人がつながることで生まれる革新的な動きで、そのヒントは二枚目の名刺。本業とは違う自分の名刺を持つことが、新しい豊かさにつながるという働き方が始まっています」と説明した。
砂利道もスイスイ走れる車いす―家電メーカーエンジニアがチャット通じて開発
これまでにない車いすを開発した近藤源太の本職は家電メーカーのエンジニアだ。夜9時過ぎに帰宅すると、パソコンのビデオチャットを使って開発仲間と打ち合わせをする。新しい義手開発のアイディアを相談すると、1時間もかからず3Dで描かれた設計図の返信が来た。
ゲストの米倉誠一郎・一橋大学教授は「企業はより付加価値の高い製品の開発を模索しています。でも、現場のエンジニアには自分たちが作りたいものを作らせてもらえないという厳しい現実があります。それで、若手エンジニアたちは2枚目の名刺を使い、仲間を募って、自分のスキルやノウハウを持ちよって、新しい何かを作り出そうとしているわけです」と話す。
手間・ひま惜しまぬイノベーション―カギは企業が我慢できるか
国谷「なぜ企業はこれまで社員に対して柔軟な対応ができなかったのでしょうか」とクリエーターの箭内道彦に聞く。「たしかに、大手企業はこれまでベンチャービジネスを育成しようとしてきました。しかし、社員が求められたのは不退転の決意で、企業の縛りもいろいろありました。これでは自分の発想でビジネスを始めるのは難しい。企業の垣根を越えたイノベーションを作り出すというのは難しい状況にありました」という。
米倉「ある著名なケーキ職人と話をしたとき、彼はどんなに美味しいケーキを作ってもホームメイドのケーキには負けるというんですね。理由はホームメイドは時間や材料をたっぷりかけ、食べる人の好みも知っているからだと。イノベーションも時間と手間・ひまを惜しまないことがカギになると思います」
ナオジン
*NHKクローズアップ現代(2014年1月6日放送「シリーズ未来をひらく1 『二枚目の名刺』が革新を生む」)