アメリカの高校生らしいピチピチした熱量全開の青春映画だと思い込んでいた。足を踏み外して、反省して、少し大人になるまでがワンセットのストーリーを期待して観ると、痛い目にあう。この映画はハリウッド・セレブの豪邸専門のティーンエイジャー窃盗団の実話を元にしている。パリス・ヒルトンにリンジー・ローハン、名だたるセレブの家に忍び込み、気に入ったものを手当たり次第に持ち去った美少女窃盗団、その通称がタイトルになった「ブリングリング」だ。
ずるくて身勝手で薄汚い素顔…善悪の天秤ぶっ壊れた少女たち
被害総額は300万ドルに上るというセンセーショナルな犯罪だが、そのスケール以上に常軌を逸しているのが、少女たちの思考回路だ。社会に反抗する手段として既存のルールを破ったりしているのではない。ただ享楽的に物欲に身を任せ、「クールだね」の一言をクラブでもらうためだけに、人生を棒に振るリスクを冒す。善悪の天秤も、損得の天秤もぶっ壊れている。彼女たちの行動に納得のいく動機は見いだせない。単純な欲望と、格好の付け合いと、仲間からはみ出したくないという思い。
新人類、ロスジェネ、ゆとり、旧世代から「理解不可能」と思われた次世代は名づけを経て、社会に「理解」される。ブリングリングは今まさに名づけを待っている「異物」であり「次世代」なのかもしれない。
窃盗団の主犯のレベッカは、彼女に惚れている冴えない青年・マークをたき付けて仲間を率いていたが、危険がわが身に及ぶと見るやマークに罪を着せての高跳びを決め込む。家宅捜索のときもしらを切り、いよいよ逃げ道がないとわかったら警察に取り引きを持ちかける。したたかで罪悪感をどこかに置き忘れてきた少女だ。
逮捕されてからもヒロイン気取りでテレビ出演
マークはレベッカの虜で自分の醜さに悩む高校生である。美少女窃盗団と行動をともにし、セレブ宅から持ち出した高級品を身にまとうことで心を武装する。自分たちの行為は社会的に最低だと認めながらも、犯罪である種のスターとなった自分に酔う節すらある。びびりで自己評価が低く、対外的に格好をつけることに一生懸命で、「クールな自分たち」から外れたくないために、勧められるままドラッグに興じ、少女たちにおぼれていく。
ニッキーは2人を煽る形で窃盗団に参加する。ひときわ美しく高慢で、もてはやされることに慣れている者の驕りが香る。彼女の白眉は「逮捕後」の開き直りだ。マスコミのインタビューを積極的に受け、一連の犯罪は自分にとっての学びの場だったと語り、自分は将来教祖になり、世界平和のために働くとうそぶく。演じるのはハリー・ポッターシリーズでおなじみのエマ・ワトソンなのだけれど、目力と尊大さが役にピッタリきている。
ティーン窃盗団がセレブのクローゼットをハント!という響きから、出てくるファッション、雑貨や豪邸の様子が女子ウケ映画と見る向きもあるけれど、立派に社会派ムービーでした。しかし、スマホで自撮りに興じる美少女たちのふてぶてしさや美しさ、靴、バッグ、アクセサリーと音楽の大洪水ももちろん見どころ。着飾ってる女の子の「アタシが世界の中心よ」感はたまらんよね…
(ばんぶぅ)