熟練技術者の手作業頼みで1件2000万円!目標は100万円以下
iPS細胞研究は安全性と有効性がカギだが、もうひとつ乗り越えなくてはならない大問題がコストだ。理化学研究所の高橋政代氏は関西で高校生を相手に講演した時、「手術にいくらかかるのか」という質問を受けた。答えは「2000万円以上」だった。
高橋氏は網膜の出血が視力低下・失明を招く加齢黄斑変性の患者に、iPS細胞で作った網膜の移植を来年夏にも行う予定だ。目下、実用化で最先端を行く。しかし、2000万円が実用化といえるかどうか。
何にでもなるiPS細胞を目的の網膜に作りあげるのは難しい。熟練の技術者が毎日手作業を繰り返して3か月。この間にチリひとつ落ちただけで別の細胞になってしまう。高いのはそのためなのである。コストダウンもひとつの闘いになる。高橋氏の呼びかけでできたベンチャー「ヘリオス」は、ロボット企業と提携して600にも及ぶ手作業の自動化を試みている。また、細胞の状態を点検するのに顔認証技術を使えないかと、大手カメラメーカーとの提携を考えている。「100万円以下に」、これが目標だ。
山中教授は楽観していた。「最大のカギは有効性を示すこと。日本の技術はすぐれているから、多くの企業が参入すると間違いなくコストは下がる」と語る。
いま一番実用化に近いのは網膜移植だが、臨床試験の日程は血小板(3年)、パーキンソン病(3年)、脊髄損傷(4年)、ミニ肝臓(6年)と続く。山中教授は「ジグソーパズルだ」という。倫理、当局の規制、社会の容認、資金、企業との連携、すべてのコマがそろわないと臨床には入れない。 とくに必要なのはプロジェクトを統括するCEOである。「民間には人材がいるが、大学には少ない」
山中教授は常にストイックに見える。「父を肝臓病で亡くした。もう少し早かったらと思うが、いまもどんどん亡くなっている」。1日も早くという思いがこれでわかった。世界の思いでもある。
ヤンヤン