「猪瀬直樹」高転び!もう「私は5000万円で都知事を棒に振った」でも書くしかないよ

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銀行幹部も聞いていた徳田虎雄の病室ハンズフリー電話「猪瀬は1億5000万円と…」

   しかし、週刊新潮には「徳洲会」の総帥・徳田虎雄氏と次男で選挙違反の捜査を受けている徳田毅氏との、猪瀬氏へのカネをめぐる生々しいやり取りが書かれている。それは昨年の11月19日のこと。虎雄氏のいる「奥の院」を尋ねてきた、あおぞら銀行の常務や部長など3人の幹部がいるとき、毅氏から虎雄氏の携帯電話にかかってきた。携帯電話はハンズフリーのスピーカー機能に切り替えられ、その部屋に居合わせた誰の耳にも相手の声が聞こえる状態になったという。話の概要はこのようだった。

   毅代議士が「都知事選の応援で、猪瀬は1億5000万円とか言ってきました。でも結局は1億を先にくれ。残ったら、『返すから』という話になりました」

   すると虎雄氏は「とりあえず5000万円」にしろといったという。

   「受け渡しはどうしましょうか」という毅代議士に「向こうに取りに来させろ」、毅代議士が「議員会館でやりましょうか」というと「議員会館でやれ。足がつかないようにしろ」という指示があったというのだ。

   これは決定的な「証言」である。週刊文春が書いているように、一水会の木村三浩代表が仲介して猪瀬氏は虎雄氏に会い、虎雄氏から都知事選挙の応援をするという約束をもらい、後日5000万円を受け取ったのである。選挙には意外にカネがかからず、5000万円は手付かずだったようだが、明らかに選挙のための裏金であり、個人的な借金ではないだろう。

   週刊新潮で元東京地検公安部長の若狭勝弁護士が、この事件の展望をこう語っている。<「徳洲会の一部幹部が『借用書なんて知らない』『返金の打診を受けていない』と証言しているため、5000万円は寄付と見なせる可能性がある。出納責任者への報告を怠っており、公選法でダイレクトに猪瀬知事の責任を問えます。私はむしろ借用書が出てきた方が面白いと思っていました。特捜はそれが偽造されたものかどうか、必死で調べることになりますから」>

   1987年に「ミカドの肖像」で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞し、小泉政権下で道路公団民営化推進委員会の委員になり、政界への足がかりをつくる。上昇志向と権力欲が異常なほど強く、あの小さな体で人を威圧する態度をとる彼に、ノンフィクション界の先輩や仲間からも嫌がられていた。だが、400万票以上を集め、東京五輪招致まで決まり、得意の絶頂で事件が発覚してしまった。週刊新潮でかつて民営化推進委員会で一緒になった関係者がこう指摘している。

<「猪瀬さんという人は、一見、改革派の旗印を掲げているように見えます。しかし、それと権力志向とは二律背反ではありません。つまり、彼は権力を掴むためにはどう行動すべきかを一貫して考えていた。反権力的な動きをし、人気を勝ち取った上で、権力の中枢に食い込んでいく手法です」>

   猪瀬都知事が私淑していたノンフィクション作家の本田靖春さんは、猪瀬氏を嫌っていた。彼とでは生き方がまったく違うとまで「我、拗ね者として生涯を閉ず」(講談社)で書いている。

   本田さんは「気の弱い人間である」から、いささかでも強くなるために自分に課した禁止事項があると「拗ね者」で書いている。<欲の第一に挙げられるのが、金銭欲であろう。それに次ぐのが出世欲ということになろうか。それと背中合わせに名誉欲というものがある。

   これらの欲を持つとき、人間はおかしくなる。いっそそういうものを断ってしまえば、怖いものなしになるのではないか>

   5000万円のカネをほとんど面識のない人間からもらって平気な人間には、ノンフィクションを書く資格はないと、本田さんが生きていたら断じたであろう。

   都知事という座にしがみついても地獄、離れてもノンフィクション作家には戻れまい。書けるのは「なぜ私は5000万円で都知事の座を棒に振ったのか」という私ノンフィクションぐらいのものであろう。それはそれで読んでみたい気はするが。

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)/「競馬必勝放浪記」(祥伝社新書)ほか

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