60年前に病院で取り違えられた男性(60)がきのう27日(2013年11月)に会見して、「昭和28年3月30日に時間を戻して」と無念の思いを語った。男性 が起こしていた損害賠償の訴えを26日に東京地裁が認め、赤ちゃんを間違った親に渡した病院に3800万円を支払うよう命じた。しかし、時間は戻らない。
兄弟とまるで顔が違うとDNA鑑定
男性の実の兄弟3人が、彼らの長兄に当たる男性の容姿が一緒に育てられた兄弟とあまりに容姿が違うことや、母親(故人)の話などからDNAを調べたところ、自分たちと兄弟であることが判明。取り違いを疑い、2009年に墨田区の賛育会病院に残された分娩台帳を調べ、裁判所に証拠保全手続きを行った。
調べていくと、男性が生まれた13分後に別の男の赤ちゃんが生まれていたことがわかった。病院はこの2人を取り違えたとみられ、男性は「人生を狂わされた」と病院に2億5000万円の損害賠償を求めていた。
男性は育った家では4男にあたり、2歳のとき父親をなくして、母子家庭で生活保護を受けて育った。進学もできず、中学卒業後に町工場に就職、定時制の工業高校に進んだが、大学へは進学できなかった。現在はトラック運転手をしている。一方、本来の家庭は裕福で、こちらに取り違えられた男性は大学から一部上場企業に入っていた。兄弟3人とも大学に進学していた。
「育ててくれた母にはかわいがってもらい感謝してます」
会見で男性は「そんなことありえるのか。病院が間違えるなんて」と思ったという。母親から何度か「お前は誰に似たんだろうね」といわれたことはあった。DNA鑑定で取り違え明らかになり、本当の実家の家庭事情を聞くにつけ、「私の育った環境はかなりきびしいものだったな」と話す。
「実の両親の話を聞いた時、育ててもらいたかったなと思いました。できれば生きて会いたかった。写真を見ると涙が出ました。この世に生を受けたことは感謝しています」
育ての親に対しては、「できることは精一杯やってくれたと思ってます。母親にはとくにかわいがってもらった。感謝してます」
親たちはこの事実を知らないまますでに亡くなっている。
取り違えの相手の男性とは「話したことも会ったこともありません。彼も被害者ですから」とだけ話した。実の兄弟が「あと20年生きられるから仲良くしよう」といっているという。
きょうのアンカー大和田獏(俳優)は「裕福だから幸せというわけではないが、もうひとつの人生があったというのはなかなか受け入れられないと思いますねえ。お金で済む話でもない」という。
北川正恭(早稲田大学大学院教授)「探し出すのにもの凄く苦労したと思います。病院は隠すから。秘密保護法でこれが公権力の間違いだったら怖いなと思いましたね」
司会の井上貴博アナ「取り違えが他にあってもおかしくないですね」
カンヌ映画祭で受賞した映画「そして父になる」は、取り違えが6歳でわかるという実話にヒントを得た話だった。こちらは60歳だ。実話はいっそう重い。