きのう21日(2013年11月)、神奈川県横須賀港から1隻の船が出航した。見送る初老の男性の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。積まれていたのは無人深海調査機「江戸っ子1号」だ。8000メートルの深海で生物の撮影に挑む。成功すれば、これまでの7700メートルを超え世界初の快挙となる。涙を浮かべていたのはこのプロジェクトリーダーの杉野行雄さん(64歳)だった。
水深8000メートルに耐えるガラス球
東京・葛飾で工業用ゴムを製造する杉野ゴム化学工業所を営む社長の杉野さんとスタッフは4人が、深海8000メートルというとてつもない世界に挑戦した。杉野さんはこう話す。「大阪の町工場が集まって人工衛星・まいど1号の打ち上げに成功しました。その時の映像を見て、俺たちにもなにかできることがあるのではと考え始めたんです。
不況で町工場がどんどん少なくなっている。このままでは日本を支えてきた製造技術が絶えてしまうのではという思いもありました。大阪が宇宙なら、こっちは海だと思いました」
司会の羽鳥慎一「2009年に杉野さんは多くの仲間に呼びかけ、集まって来たのが16社。しかし、材料費だけでも2億円かかると話すと、ほとんどの町工場が尻込みしたようです」
杉野「残ったのは2社だけでした」
あきらめきれない杉野さんは新たな深海調査船のために代替資材を探し求め、「ガラスの球」が水圧に強いという情報を耳にする。岡本硝子に相談した。岡本毅社長は「世界に負けないガラス技術がうちにはあるという自負がありました。儲けを度外視して引き受けました」と振り返る。深海の水圧に強い特殊なガラス球は今年8月(2013年)に完成した。10数回にわたる実験を繰り返し、このガラス球が8000メートルの水圧にも耐えられることを確認した。
きのう21日「江戸っ子1号」出航!
そして、「江戸っ子1号」は出航。羽鳥は「プロジェクトリーダーの杉野さんが同行できなかったのは、先月に命にかかわるような大病を患ったためでした」
長嶋一茂(スポーツキャスター)「あらためて日本は凄い国だと思いますね。経験や才能豊かな凄い人たちがたくさんいる。そういう人たちの英知を集めれば、世界に十分通用する」
杉野さんはこう話す。「これからの町工場は大企業頼りの単なる部品メーカーではダメ。いろいろなものを開発して、高い技術力で製品を作っていかなければならない。物作りにかかわる者として、スタートラインに立ったような気持ちです」