脚本家という夢を学生時代から追い続ける主人公・みち代だが、いくら書いてもホン(脚本)はいつも一次審査落ちだ。34歳、男なし、バイトで稼いだ日銭暮らし。人生崖っぷちモードなのはわかっているけれど、簡単に踏ん切りなんてつけられない。だから書く。歯を食いしばって、髪をひっつめて、今日も愛用のPCに向かう。そんなみち代に対し、もう一人の主人公・天童はあくまでスカした態度を貫く。「俺は天才」「本気出したら賞なんかちょろい」とうそぶきながらも、実際にシナリオを書き上げた経験はない。正反対の二人が織りなすのは、明るく切ないラブコメディだ。
相手をやり込めることで伝えあう想い
噛み合わない二人のやりとりはコミカルではあるのだけれど、ずんと痛い。なんでお互いの悪いところばかりピンポイントで見えるんだろう。とくに前半部はみち代への感情移入が止まらない。相手を貶める言葉が自分を傷つける。
「じゃああんた(おまえ)は他人のこととやかく言えるほど大層な身分なのかよ!」
ぶつかるってこんなに力仕事だったっけ。
必死にもがいた経験がないから他人の努力を馬鹿にできる天童。どれだけもがいてもうまくいかず、自虐とショックを受けていないフリだけは達者になったみち代。はっきり言って格好悪い。でも、だからこそ願わずにはいられない。神様仏様脚本家さま、どうか彼らにハッピーエンドを。
天童の嫌な奴っぷりはわかりやすいが、みち代だって大概だ。監督やプロデューサーに媚びを売りまくる。そのくせ自分の頑張りが報われないことへの不満でいつも鬱屈している。仲間の成功を素直に喜べない。プライドが高く、夢を追い続ける自分に酔っている。ああもう、なんだってこんなにややこしいんだ。
「じ~ん」「つ~ん」とするのに、なんか泣けないもどかしさ
全編を通して、台詞の強さに射抜かれる。「夢を諦めるのって、こんなに辛いの」「今も未練たらたらだよ」「わたしなんかより才能あるし」「書いてから言え!」「ああああああああああああああ」「ここにいる全員が自分だけは他と違うって思ってるの」「夢が叶うのはほんの一握り、でもなぜか自分は叶う側の人間だと思ってた」「やめるタイミングがわからない」
夢を追うという行為の代償が重みをもって迫ってくる。自分を信じようとすること辛さ、みじめさ、そして尊さ。等身大の自分なんて、分かってたら苦労しないんだよ!と叫びだしたくなる。
繰り出されるキメ台詞にきちんと輪郭のあるキャラクターがあるので、ほとんど変わり映えのしない生活の場面が続いても「観られる」。一瞬入れ子的に脚本を見せたり、伏線をひとつずつ回収したりと丁寧に作り込まれている。唯一気になったのは、(天童風に言うと)「綺麗でよくまとまってて演者も巧いのに、なんか泣けない」ことかな。じ~ん、であったり、つ~ん、であったりという感覚は確かにあるのだけれど、涙はこぼれなかった。意固地で諦めが悪くて、嫉んだりひがんだりしっぱなしで、弱るとすぐ人に泣きついちゃう主人公、嫌いじゃないんだけどな。
(ばんぶぅ)
おススメ度☆☆☆