銭湯絵師はいまや東京に2人しかいないといわれる。湯船の向こうに富士山の背景画を描くペンキ絵師だ。「週刊人物大辞典」コーナーで、その一人、中島盛夫さん(68)の仕事ぶりを紹介した。
中島さんはその日、キング・オブ・銭湯と呼ばれる東京・北千住の「大黒湯」の壁絵を3年ぶりに描きかえる作業に取り掛かった。7時間で男湯と女湯に2つの異なる富士山が姿を現した。男湯は逆さ富士、女湯には色鮮やかな赤富士が描かれていた。
「お客さんに露天風呂に入った気分で帰ってもらえたら、それでいいんです」
司会の羽鳥慎一「中島さんが銭湯画に出合ったのは18歳のときでした。就職のために福島から上京して工場に勤め、たまたま入った銭湯に描かれた雄大な富士山を見て驚き、その絵をたった1人の絵師が描いたという事実を知って、自分も富士山を描きたいと思うようになったそうです。1年で工場を辞め、絵師に弟子入りしました」
中島さんは下書きをしない。何を描くかは白紙で、現場にたってから決める。
コメンテーターの長嶋一茂(スポーツキャスター)「凄い。下書きも構図も決めずに、あれほど大きな絵が描けるものなのですね」
羽鳥「設計図はすべて中島さんの頭の中に入っているそうです。その設計図を現場の雰囲気を考えながら取り出し、何を描くかを決めているようです」
中島さんは「いろいろな苦労がありますが、書き終えたときの醍醐味はそれ以上ですね。その時、一番いいと思える絵を描いています。壁画を描くことに終わりはないと思います。お客さんがお風呂屋さんに来てリラックスしてもらい、露天風呂に入った気分で帰ってもらえたらいいんです」と語る。
「ニューヨークあたりで富士山のでっかい壁画描いてみたい」
吉永みち子(作家)「私も小さい頃に銭湯に通いましたよ。絵が変わっていると、それまでとは違う温泉に来たような気分になれましたね」
羽鳥「空塗り3年、松の木10年、富士山一生だそうです」
長嶋「空塗りといっても、ブルーのペンキを塗るだけでしょう。それに3年もかけるとは」
中島さんにはこんな夢がある。「いつか一度でいいから大きな壁画を描いてみたいですね。ニューヨークあたりであるじゃないですか。大きさはいくらでもいい。富士山を描きたいね」
ニューヨークと入浴のダジャレ?