一つひとつにシーン、料理の数々…とにかく美しい
しかし、彼女の挑戦は苦い敗北の味で幕を下ろす。中傷や嫌がらせで心身ともに疲れ切ったオルタンスは「逃げる」。今の彼女は南極調査隊の専属シェフだ。それ以上でも以下でもない。過去を語りたがらない、近寄りがたい女料理人となっていた。
この物語は、男ばかりの職場で大成功を収めた女の成り上がり譚ではない。根本にあるのは成功の記憶ではなく、苦渋の思いだ。全力を尽くしたが駄目だったので、諦めて逃げた。映画の主人公にはふさわしくない決断だ。でも、だからこそラストシーンにうなずける。オルタンスが大統領のお抱え料理人から、南極の荒くれ者たちのシェフになった理由はなんだったのか。過去を消化し、またスタートラインに立つための「みそぎ」だったのだろう。
過去と現在を行き来する構成だが、出てくる画のひとつひとつが美しい。寂しい南極の光景と、湯気の立ち上る一皿のコントラストが彼女の料理に焦点を当てる。うん、お腹はぺこぺこ、胸はいっぱいです。
(ばんぶぅ)
おススメ度☆☆☆