毎年10月の第1日曜日にサラブレドの世界一が決定される。フランス・パリのロンシャン競馬場で行われる凱旋門賞だ。今年も日本から7年前に武豊が騎乗して敗れたディープインパクトの血を受け継ぐ「キズナ」、その時ディープインパクトの調教を担当した池江泰郎調教師の息子・池江泰寿調教師が育てた「オルフェーヴル」の2頭が参加した。
キャスターの国谷裕子「この2人には不思議な絆があります。日本の競走馬が初めて凱旋門賞に参加したのは今から44年前。この年、2人は誕生し、幼稚園から小学校まで幼なじみでした。その後、2人の道は分かれ、武さんは騎手へ、池江さんは調教師の道を歩み始めました」
フランス入りしてからの不運…調教で顔蹴られ鼻負傷
池江は「凱旋門賞でディープインパクトが負けた。あれだけの心血を親父が注いできた名馬が負けた。敵討ちだ、リベンジだと考えました」と話す。凱旋門賞に参加して以来、ヨーロッパの競馬関係者の間には、アジアの馬が何をしに来たという冷ややかな見方がずっとあった。日本の競馬は歯牙にもかけられなかったのだ。
そんななか、池江はオルフェーヴルと出合う。オルフェーヴルは鋭い脚をもっていたが気性が荒いといわれていた。それでも、池江は何とか調教しレースへ出した。ここで信じられない事が起こった。初レースでオルフェーヴルはレース後に騎手を振り落としたのだ。別のレースではオルフェーヴルは斜めに走り鉄柵に接触、順位を落とした。その瞬間を目撃した池江は翌日から調教方法を変えた。調教は馬をいかに速く走らせるかが基本だが、池江はまったく違った調教を始めた。なんと乗馬のトレーニングであった。
池江「前進や停止、後退といった、人間の意志が馬に伝わるまで根気強く基礎訓練を繰り返しました」
約1か月後には乗り手の意志に従うオルフェーヴルの姿があった。フランスの馬場では馬は縦でも横でも自由に走れる。オルフェーヴルはスミヨン騎手を乗せ馬場に入った。ここでまたハプニングが起きた。オルフェーヴルが前を走っていた馬に顔面を蹴られ、鼻を傷付けたのだ。そのため、スミヨン騎手が騎乗する調教は1週間延期せざるを得なかった。
まったく違う日本と欧米の競馬…世界一はまだ遠いのか
国谷「これだけのトラブルを抱えながらも、オルフェーヴルは2着なりました。日本の競走馬が2着になったのはこれで4回目です。でも、凱旋門賞の優勝という扉は閉じられたままです。日本の競走馬がこの扉を開けるためには、何をすべきでしょうか」
増田知之(日本中央競馬会東京競馬場場長)はこう話す。「日本と欧米の競馬はまったく違います。芝の刈り方、馬場のコースの作り、レースの運び方などが違います。欧米の競馬は終盤まで一丸となって走り、最後の直線にかかる手前から、ここがスタートラインだと優勝争いが始まります。これに備えるには、日本の競走馬の瞬発力、体力、スタミナなどをもう一段階引き上げる必要があると思います」
オルフェーヴルは今年の有馬記念が最後の出走となる。
ナオジン
*NHKクローズアップ現代(2013年10月7日放送「凱旋門賞『世界一』にかけた夢」)