マタニティー・ハラスメント、縮めてマタハラというのだそうだ。働く女性が妊娠や育児を理由に職場で不利益をこうむることを指す。連合が今年初めて行った実態調査では、4人に1人がマタハラにあっていた。
3人を子育中の栄養士は社員食堂で働いていた。長時間の立ち仕事。最初の子どもの妊娠で切迫流産の診断を受け、医師は安静をすすめたが、会社は休業を認めず、結局辞めた。
「泣き寝入りでした」
介護士の女性は2人目の妊娠中、「妊婦は病気じゃない」と夜勤を休めず、夜勤のあとで出血して流産した。職場の女性から「いいじゃない、1人目じゃないんだから」といわれたのがショックだった。
法律は妊婦に手厚いが、理解広がらぬ職場
労働基準法では、申し出れば時間外・深夜労働を避けられる。また産前産後の休業もとれる。育児・介護休業法は原則として子どもが1歳になるまでの休業を定めている。復職後も3歳までは短時間労働にできる。
さらに、2005年の次世代育成支援対策推進法は、育休や短時間勤務の行動計画の策定や目標達成措置を講じるよう企業に求めている。法体系では女性保護に手厚い。事実、子育てしながら働く女性は増えている。にもかかわらず、マタハラの訴えも絶えない。
主な理由は仕事負担の不公平感からくる職場内での摩擦だ。育休や短時間勤務で抜けたあとのカバー体制が立ち後れているのだという。マタハラをしてしまったという女性がいう。社員10人で半数が女性。新入社員が入社早々、妊娠・出産した。他の社員が仕事を肩代わりした。さらに2人目の妊娠・出産と続いて、「勝手に子づくりして勝手に産むんなら、勝手に辞めろ」といってしまった。「ちゃんと仕事への意欲を示せば理解してくれるのだが」という。
山極清子・立教大大学院特任教授は「企業も女性たちも法律を知らない」という。職場に負担感、迷惑感があるとマタハラになる。労働時間よりも成果で評価する仕組みが必要だという。
出産で仕事を辞める女性340万人…「ダブルアサインメント」「子連れ出勤」取り入れる企業
先週、職場の環境を改善しようという催しがあり、会社の人事担当者たちがさまざまなアイデアを発表した。「コワーキングスペース」は育児中の女性たちが集まって、交代で育児をしながら働く。「子連れ出勤」というのもあった。子どもを抱いて会議に出ている女性たちがいた。
「ダブルアサインメント」というのもあった。社員60人の商社では2人ペアで仕事の情報を共有する。担当者が退社したあと、顧客から問い合わせがあっても、相方が対応できる。こうした協力は考査基準にも入っていて、カバーが報われる。ペアなら休暇が取りやすいなどメリットもある。
育児を夫婦で見直すことを薦める会社もあった。復職前の女性を集めたセミナーに別の会社で働く夫も参加して、公平な育児の分担を話し合う。 保育園の送り迎えを妻の仕事に合わせて夫も受け持つ。参加した女性は「早く帰っちゃうけど、しっかり働いているねといわれればいい」という。
間もなく「大介護時代」がくる。山極教授は「出産で仕事を辞めた女性が340万人もいます。この人たちが雇用されれば、日本は変わります」と話す。保育所の待機児童問題など、日本の子育て環境の悪さは出生率の低下に現れている。明日の日本に暗い影を投げる問題だが、政府の危機感は薄いように見える。フランスの出生率の回復がいかに大変な意識改革だったか、あらためて考えさせられた。
ヤンヤン