「毎日飲んでも飽きない味噌汁のように、毎日聴いても飽きない曲を目指したい」
NHK連続テレビ小説「あまちゃん」の音楽を担当した、神奈川生まれの福島育ちの音楽家・大友良英(54)はこう語った。2日(2013年10月)、あまちゃんの舞台となった岩手県久慈市で大友のコンサートが開かれた。大友はあまちゃんのオープニングテーマ曲誕生の秘話をこう話した。
「久慈の町に来て、最初にウニを食わされたんですよ。実際に海女さんが海に潜って獲った獲れたて。本当に美味しい。あり得ないぐらいうまいんですよ。そのとき思ったのは、『うまい』って感情も理屈も越えて人を笑顔にする。そういう音楽を作ればいいだってことでしたね」
「あまちゃん」音楽担当・大友良英「何か考えてよって頼んだら、パラパラと弾いてくれた」
大友が今こだわるのは自然に笑顔になり、前に進めるような音を曲に込めることだという。小泉今日子が歌う「潮騒のメモリー」にもこんなエピソードがあった。
「今日子さんと歌い方のニュアンスを話していたとき、今日子さんがそれまでなかった『激しく~』っていうフレーズを作った。また、『来てよタクシーつかまえて~』のところをもう一つぐらいグッと来るように上げたいねって相談していたら、最近一緒に仕事をしている坂本龍一さんがフラッと入ってきたので、坂本さんに『つかまえて~』のところ何かフレーズ考えてと頼んだら、『いいよ』ってパラパラと弾いたのがアレです」
「笑いを呼べる音楽目指したい。笑いって理屈を超えますから」
大友は2年前、育ててくれた福島への思いをこう語っていた。「福島っていう名前が不名誉な形で世界中に広まっちゃった。これを何とかポジティブな名前に転換したい」。そこで大友が始めたのがプロジェクト「FUKUSHIMA!」という祭りだった。昨年は文部科学大臣賞を受賞している。
「ただ辛かったり、生真面目に何かに面と向っているだけじゃ、人間って動けないっていうのをすごく実感しました。そのとき思ったのは笑いですよ。笑いこそが人間のモチベーションになる。笑いって理屈を超えますから」
明治大政経学部准教授の飯田泰之は「笑わせるのは一番難しい。泣かせることや感動させることより難しいですね」
作家の吉永みち子「強い笑いって、ドン底にいて笑っちゃうみたいな、そういうのを強い笑いと思う。(『あまちゃん』のような)こういう音楽を聴くと頑張ろうと毎朝元気になりましたね。運動会の気分というか」
含み笑い、わざとらしい笑い、あざ笑いが巷に氾濫するなかで、自然と心から笑顔になれる元気の出る音楽を期待したい。
文
モンブラン| 似顔絵 池田マコト