己の死を悟った父親(仲代達矢)は、誰も中に入れぬよう自室の扉を完全に閉ざし閉じこもってしまう。妻と子に別れを告げられていた息子(北村一輝)は困惑し、怒り、部屋の外から呼びかけるが、父親は応えない。父親が閉じこもったのはなぜなのか。現代の日本がかかえる問題を浮かび上がらせていく。『バッシング』以降、社会問題に切り込む作品を発表してきた小林政広監督が、『春との旅』でコンビを組んだ仲代達矢と「無縁社会」を描いた。
脚本の元になったのは、2010年に足立区で111歳男性がミイラ化した遺体で発見されたことだという。男性の娘と孫が生きていることにして年金を受給し逮捕され、これをきっかけに同様の事件が多数発覚した。マスコミは「奇怪」な特殊事件という取り上げ方をしたが、現代の日本の姿が集約されていると小林監督は感じ、仲代達矢に脚本を見せると、その場で承諾したという。
長回しでていねいに描く息づかい
題材や題名から社会を告発する映画というイメージを持つかもしれないが、小林監督はこれまで社会問題に対して主義を断定したことはないし、答えを出したことはない。一貫して社会の中で生きる人間を観客と一緒に考えるスタンスで描いてきた。
この映画も人間の愚かさや弱さを肯定するように、じっと人間を描いていく。驚くべきはカット数の少なさだ。総カット数は100にも満たず、カットを割ることで消えてしまう呼吸を存分に生かした長回しだ。役者はもちろん、カメラ、照明、美術、録音が一体化しなくては、その意味合いが薄れてしまい、鼓動が響かない。なかでも、録音の福田伸の仕事がひたすら素晴らしく、「映画の聴覚」の可能性の広さを感じさせる。
題材然り、また震災を描いていることもあり、批判的に観る方もいるだろう。北村一輝が熱演した息子に己を重ね、嘔吐してしまう方もいるだろう。人間が反応する映画は人生を変える映画でもある。好き嫌い、良い悪いを越えた映画をわれわれは最近観ただろうか。
ショックを受けたり、辛い感情に支配されるかもしれないが、筆者はこの映画をすすめる。あなたが最後に「生きてやる」と思えることを信じているから。
おススメ度☆☆☆☆☆
川端龍介