歯止めは「総労働時間の上限規制」「確実な休憩時間」
過酷が長時間労働にもかかわらず、違法性が全く問われないケースも増えているという。都内の労働基準監督署に寄せられたIT企業のケースは、多くの社員が適用されているみなし労働時間制の一つ、「専門型裁量労働時間」だった。仕事の進め方やスケジュールを自分の裁量で決める働き方で、研究者や記者などに認められている。
監督署が調べると、このIT会社では長時間労働がまん延していて、過労死が危険とされる80時間以上の勤務が常態化していた。しかし、時間の管理が本人に任されているため、現在の制度では企業の責任を問うことはできない。なぜこういうみなし労働時間制の悪用が広がっているのか。労働問題に詳しい宮里邦雄弁護士(日本労働弁護団前会長)はこう解説する。
「裁量みなし労働の最大の問題は、長時間労働であっても労使協定でやられてしまうとなかなか明らかになりにくい点です。もともと制度を導入したときに乱用される恐れがあるという指摘はありました。一定の見直しを図るとしても、きちっと歯止めをかけなければ、ますます長時間労働が広がる要因になっていくでしょう。
私は全体としての総労働時間の上限を規制すること、1勤務と1勤務の間に確実な休憩時間を与えることが必要だと思います。インターバル機能と呼んでいますが、ECの労働時間制度にはあり、休憩時間は11時間となっています。
裁量を緩和するだけではもっともっと悪くなり、労働者にとって悲劇的な状況が強まると懸念しています。人あっての企業という理念が社会的に共有されることが必要なんです」
こんなおぞましい企業が登場したのはデフレ経済下、派遣社員制度が製造業にまで拡大された2000年以降だ。「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方・・・」とうたった武田信玄の教訓などどこへやら。人あっての企業という理念を取り戻さない限り、最近の経済成長もまやかしで終わると見たほうがいい。
モンブラン
*NHKクローズアップ現代(2013年9月18日放送「拡大する『ブラック企業』~過酷な長時間労働~」)