作家・妹尾河童のベストセラー自伝小説を映画化した。昭和初期の神戸下町を舞台に、洋服の仕立て屋を営む家に生まれたH(エイチ)こと妹尾肇が、戦争の時代に、愛情あふれる家族とともに懸命に成長していく姿を描く。主人公Hの父親を水谷豊が演じ、脚本は「ALWAYS 三丁目の夕日64」の古沢良太、監督は「鉄道員」の降旗康男が担当した。
「誰かを責めて、自分もそういう嫌な奴になっちゃだめだ」
子供たちに戦争はどう映ったのか。一家がクリスチャンだったHの店には、外国人の客も多かった。もらった絵葉書に描かれたニューヨークの街並みを見て、「アメリカはすごい国なんだ」とHはあこがれた。ところが戦争が始まり、大好きなうどん屋の兄ちゃんも政治犯として捕まってしまうし、女形の役者だったオトコ姉ちゃんにも召集令状が届く。思想が統制され、Hたち家族は「非国民」といわれのない差別を受ける。
学校でいじめに遭ったHは、自分をスパイ扱いした友達に仕返しに行こうとするのだが、そんなHを父親は「誰かを責めて、自分もそういう嫌な奴になっちゃだめだ」と諭す。現代にも通じる大切な何かを教えられたようで胸を打つ。
うどん屋の兄ちゃんの小栗旬、オトコ姉ちゃんの早乙女太一、Hの心優しい父親を演じた水谷豊などみな素晴らしいのが、無難すぎるキャスティングのためか、どこかのドラマで演じたことのあるキャラクターとダブって見えてしまうのが残念である。
中学校に進学したHは学校の軍事教練に悩む。妹は一人疎開し、父親は消防署につとめだし、そして神戸は大空襲にみまわれる。悲しいことが続くのだが、どこか綺麗すぎる。だから、悲壮感に欠ける部分が出てきてしまうのも気になる。いや、あえて悲壮に描かなかったのだろう。
戦争が終わり、焼け野原になった神戸の街並みがスクリーンいっぱいに広がる。「いったい、なんのための戦争だったんだ」と再び考えさせられる。「戦争の夏」に見てほしい映画である。
PEKO
おススメ度☆☆☆