終戦から68年、戦没者を追悼し平和を祈念する8月15日をまた迎えた。「そもそも総研」コーナーで玉川徹(テレビ朝日ディレクター)が取り上げたのは、「戦後は本当に終わったのだろうか」というテーマだった。玉川が4人の論客にこのテーマをぶつけ話を聞いた。
ここで言う戦後とは、「安全保障、原発、TPPを考えると、すべてアメリカに突き当たり、押し切られている」(玉川)というように、アメリカ占領時代からずっと続いているかに見える日米関係、対米追随のことだ。返ってきた答えは、政治家、官僚だけでなく、日本人そのものが持っている「忖度と迎合というアメリカへの依存心」「思考が停止したままの状態」が続いているという厳しい意見だった。少し長くなるが、憲法改正の動きが強まるなか、思考停止から脱出するための参考に4人の意見を載せた。
「日米地位協定の改定をしなければ独立国とはいえません」
まず米政財界と親交が深い日本総合研究所の寺島実郎理事長はこう語る。「いや(戦後は)終わっているどころか、そこの総括がこれからの日本の課題だと思います。日米同盟は復興、成長を支える柱として、ソ連という脅威に向き合うための守り本尊のような存在で、その成功体験のまま、そこに生じるさまざまな問題だとか、新たな変化に頭を切り替えることも、変化についていくこともできなかったんです。
同じ時代に敗戦国だったドイツは、冷戦後の事態を受けて、対米関係を組み立て直そうという認識から、1993年に米軍基地を大幅に縮小し、地位協定の改定をやっています。日本も主権という意味で、日米地位協定の改定をしなければ独立国とはいえません」
では、在日米軍基地について法的根拠はどうなのか。憲法学者で早稲田大法学学術院の水島朝穂教授は、1959年3月の旧米軍立川基地(東京・立川市)の拡張計画反対運動で学生が逮捕された砂川事件の最高裁の対応を引き合いに出した。
このとき、1審(東京地裁)の伊達裁判長は米軍基地について憲法9条違反という判決を出したが、政府の判断で検察は高等裁判所を飛び越え最高裁に上告。最高裁は「高度な政治性を有するものは審査権の範囲外」と判断を放棄し、伊達判決を棄却した。この最高裁の判断が今も米軍基地存続の拠り所の一つになっている。
「愕然としたのは、最高裁長官(当時は田中耕太郎)がこの判断をいつやるか、世論を混乱させる少数意見を出させないようにすると、同僚やマスコミにではなく、アメリカ大使に直接伝え、その日の夜に大使が国務省に公電で送っていることです。戦後の歴史を見てくると、アメリカに対し、ある意味で忖度と迎合のような言説が多い。
北方領土、拉致問題、尖閣諸島、竹島、沖縄とトラブル状態を起こしています。その原因の根っ子にあるのは、小泉さん(純一郎元首相)が言った『日本とアメリカだけをやっていれば安全だ』という言葉でずっとやってきたこと。戦後の構造、占領下的思考なんです」
「右傾化というより後戻り、思考停止。このままの改憲は対米従属憲法」
かつて政権の中枢にいて、現在は「生活の党」の小沢一郎代表は…。「戦後はまだ終わっていませんよ。アメリカと組んで言うとおりにやっていたほうが安上がりだし、うまくいくという意識が日本人はものすごく強い。
だから、(日米間の交渉でも)日本人なんか相手にしないぐらい(米国は)自己主張してきますよ。日本人はウソばかりついてダメだという。日本の政治家も役人もそう言われてウンともスンとも言えない。危ないことはやらない。汚いことはみんなアメリカに任せちゃえ。いちばん楽でいいという日本人の意識が、結果として日米関係が一方的な状態になっている最大の原因です」
そこで最近の右翼の考えをと、新右翼団体「一水会」の鈴木邦男最高顧問が登場した。「今かなりきな臭い状況で、何かもう戦前のような状況があります。戦争を知らない世代が、ゲーム感覚で戦争をやってでも国を守れみたいな間違ったナショナリズムというか、それが非常に怖いですね。
右傾化というより、単純な後戻り、思考停止だと思います。三島由紀夫は国防軍をつくれと言っていましたけれども、その中で今のままなら魂がない自衛隊は単なる武器庫、アメリカの傭兵になるとも言っていました。
今の状態では、(自衛隊を国防軍に変えれば)完全にアメリカの傭兵ですね。三島由紀夫は喜ぶどころか、悲しむでしょうね。自主憲法といっているが、このまま憲法改正すれば従属憲法になってしまう」
スタジオでは、タレントの松尾貴史が「忖度という言葉がものすごく象徴的な気がします」と言い、タレントの高木美保も「日本人の悪いクセで、アメリカ様。『様』がついてまわっている。アメリカとの関係、アジア各国との関係を見直すには、戦争を体験した人たちの声が残っている今が最後のチャンスだと思います」という。