全職種平均より11万円も安い給料。引き上げたくても行政の補助条件のしばり
かつて、保育士は若い女性にとって憧れの職場の一つだった。なぜこれほど保育士が不足する事態になったのか。保育所の数が急速に増えたこともあるだろうが、それだけではなさそうである。
現在、現役の保育士は約37万人いる。そこへ毎年、大学や専門学校を卒業し資格を取って2万人が新人保育士として働き始める。その一方で毎年3万人が離職し、差し引き1万人が不足していく現実がある。
資格を取っても保育士にならない人、離職者が多いにもかかわらず復職する人が少ない潜在保育士は全国に約68万人もいるといわれる。背景として指摘されているのが、年々増えている職場での保育士の重い負担だ。延長保育や保護者からのクレームなど、対応しなければいけない仕事が増えているのに、保育士の人数はそのまま。さらに、専門的な対応が求められるようになった。食物アレルギーや寝ていうちに突然死する乳幼児突然愛症候群がセロ歳児に増えているからだ。
この問題を取材したNHK社会部の牛田正史記者が解説する。「厚労省が調査した結果を見ると、職場環境の問題点として『保護者との人間関係、責任の重さ、事故への不安』が26.5%と断トツに多いんです。次いで多いのが『雇用条件』で16.9%。保育士の収入は全職種平均に比べ11万円も低いんです」
その給料が簡単に引き上げられない仕組みになっているという。認可を受けた保育所は、行政から支給される運営費で保育士の給料などをまかなっている。運営費は預かる子どもの数、子どもの年齢で決められ、この単価が変わらない限り、保育士の給料は増えない仕組みになっているのだ。
安倍政権が緊急の対策として打ち出したのが保育士の給料上乗せ。今年度340億円の補助金をつけたが、保育士一人当たり1万円で、10万円以上の差を解消するには焼け石に水である。また、潜在保育士の再就職支援策を打ち出しているが、「潜在保育士そのものがどこにいるのか把握できていないのが現状で、対策は始まったばかりなのです」(牛田)という。
働く親たちを支える職場で離職者が増え、復職する人たちが少ない皮肉な現実をどうすれば改善できるのか、メドが立たない。
*NHKクローズアップ現代(2013年7月24日放送「深刻化する保育士不足 ~『待機児童ゼロ』への壁~」)