中国・内モンゴル自治区オルドスに高層ビルが立ち並ぶ。100万都市のはずがほとんど無人である。工事も止まったままだ。先月(2013年6月)、サッカーのコンフェデレーションズ杯が行われたブラジルでは、「サッカー反対」のデモが起って世界を驚かせた。世界経済を牽引していたはずの新興国で異変が起きている。
パンパンに膨らんだ中国バブル破裂寸前
中国の異変は「シャドウバンキング」という言葉に集約される。銀行以外の企業が自ら資金を調達して別の企業に貸し付ける。あるいは金融商品や不動産に投資することだ。なぜそんなことが広がっているのか。きっかけは2009年に政府が打ち出した4兆元(約65兆円)もの景気刺激策だった。リーマンショック後の景気の減速を食い止めるためで、地方政府に内需拡大の公共投資を指示した。こうして始まった開発競争ははじめは銀行融資だったが、途中から銀行が息切れしてシャドウに走った。これが景気の減速で行き詰まったと、SMBC日興證券エコノミストの肖敏捷氏はいう。
シャドウの危うさは右肩上がりが前提であることだ。不動産は下がらない、地方政府は倒れない、銀行はつぶれないという想定で組み立てられている。だから、経済が減速し始めるとリスクを負いきれない。破綻処理、投資家保護ができない。ためにシステム全体の不安につながるのだという。
現に先月、蘇州の銀行で預金者がロビーを占拠する騒ぎが起こった。投資先が破綻して金が戻ってこないのは銀行の責任だ、詐欺だというのだ。中央銀行は金融市場に資金を供給して事態の悪化を回避したが、さらに大きくなると救済できなくなる。
方策は規制緩和しかないと肖氏はいう。シャドウの規模は一説には130兆円ともいわれるが、ここまではびこるのは金融機関に対する規制が厳しすぎるためだ。政府もこの秋をめどに金融の自由化、参入規制の緩和へカジを切ることになると見られている。
ブラジル、インド、インドネシアから逃げ出すマネー
一方、ブラジル、インド、インドネシアなどを苦しめているのはマネーの逆流だ。アメリカの中央銀行、連邦準備制度理事会(FRB)はリーマンショックを受けて大量の資金を市場に供給し、これが新興国にも流れて成長を後押ししていた。ところが、バーナンキ議長がこの5月、量的緩和を年内にも縮小する可能性を示唆したとたんにマネーの逆流が始まった。新興国の通貨は売られ、通貨安は輸入品の値上がりをまねいて、インフレが同時に襲ったのである。
先週、サンパウロであったデモは「医療や教育に金を使え」「物価が上がって食料品が買えない」と切実な叫びにあふれた。週末の青空市場には、 生活費に充てるために手放す車がずらりと並ぶ。緩和マネーが集まり、オリンピック開催も決まって好景気に湧いたのがウソのようだ。
インドではルピーがこの2か月で対ドルで10%下落した。ただちに原油の輸入に響いてガソリンが高騰。先月は車の売れ行きが5%落ちた。インドネシアルピアは2か月で2%下落して輸入食材を直撃した。レストランの値上げは個人消費に響く。新興国経済はかくも脆弱だったのか。
第一生命経済研究所エコノミスト西濱徹氏は「3か国に共通しているのは経常赤字と財政悪化です。何かあったとき資金が逃げやすい」という。また、財政支出では補助金がインドで2割弱、インドネシアで15%もあり、この是正がはじまったところへ、間が悪くインフレがぶつかってしまったという。
処方箋はない。構造改革と基礎的な力をつけないといけないというが、それが簡単にできないから新興国なのではないか。それよりも、円が安くなったと喜んでいる日本とはいったい何なのだ。国債のほとんどを日本人が買っているという強みを、あらためて噛み締める。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2013年7月18日放送「新興国経済に異変~マネーの逆流で何が~」)