アメリカのNSA(国家安全保障局)の諜報活動を暴いた元CIA職員のエドワード・スノーデンは、ロシアへの一時的亡命を申請した。ロシア政府の決定は3か月以内に出されるそうだが、その行方とともに注目されているのが、NSAの情報監視システムの中身だ。「クローズアップ現代」は通信傍受など情報監視システムの立ち上げに関わったNSAの元幹部から話を聞いた。元幹部は「これはと目をつけられたら、どこへ行こうとNSAから逃れられない」と話す。
すべての電話・通信の80%がアメリカ経由
「私はだれでも盗聴できる権限がありました。あなたやあなたの会計士、連邦判事、それに大統領でさえも盗聴できるのです。このようなやり方が正しいかどうか国民が判断すべきだと思ったのです」
スノーデンは暴露した理由をこう述べた。NSAはスノーデンに強大な権限を与えていたが、その足跡を追うと日本軍による真珠湾攻撃(1941年)にたどり着く。奇襲を未然に防げなかった教訓として、1952年に盗聴などを行なう政府機関として設立された。当初、存在そのものが秘密にされ、その後も詳細な活動内容はほとんど明らかにされてこなかった。
転機が訪れたのは1990年代に始まったインターネットの急速な普及による通信新時代のなかで、これまでの盗聴に変わる新たな監視システムの開発が必要になってきたことだった。開発に関わったNSAの元幹部、ウィリアム・ビニーはこう証言する。「世界中に飛び交っている数千テラバイト(TB= 1TBは日本語の5000億文字に相当)というデータをどう集めて分析するのか。そのなかから必要な情報をどのように整理し選び取るのか、それが課題だった」
さらに劇的に変化したのは、2001年の同時多発テロ事件だった。未然に防げなかったことが、その後のNSAの方向性を決定づけたという。「米本土で起きた『真珠湾攻撃』を防げなかった。恐怖、パニックでした。そのときから、みな口々にすべての情報を集めなければと言い始めたんです」(ビニー)
テロを防ぐには世界中のすべての通信情報を監視する必要がある。NSAが目を付けたのが「メタデータ」と呼ばれる情報収集の仕組みだった。あるテロリストを追跡する場合、その人物が電話をかけた際に重視するのは、通話の中身ではなく、いつどこからかけたのか、そして相手先の電話番号だ。パソコンのメール送信でも、メールの中身ではなく時刻や相手先のアドレスが重視される。ATMで現金を引き出したら、その時刻やATMの場所をチェックする。
これがメタデータと呼ばれる情報で、通信の中身を手間隙かけて分析するよりも、テロリストの行動範囲や連絡を取る相手が浮き彫りになり、テロ組織発見につながるという。
「メタデータのおかげで、データの中身を一つひとつ調べなくてよくなった。メタデータを分析すれば、世界中の人々の行動がどう関係し合っているか分かるのです」(ビニー)。
都合のいいことに、世界中の電話や通信の80%以上は、光ファイバーの海底ケーブルを通じて米国を経由する仕組みになっている。こうしてアメリカはあらゆる情報を入手できる体制を構築していった。2001年の同時多発テロ直後に成立した「愛国者法」は、NSAに通信会社から情報を入手できる強い権限を与えた。権限を行使するには裁判所の命令が必要だったが、08年の外国情報監視法改正案が可決され、裁判所の命令なしで行使できるようになった。それがスノーデンの告発で曝け出されたのだ。