イランで8年ぶりに穏健派の大統領が誕生した。ハッサン・ロウハニ氏はかつて西側との交渉の責任者で、「外交の賢人」と呼ばれた。大統領選でも「核問題を解決するには対話しかない」と訴えた。オバマ米大統領も対話による事態打開への期待を口にした。イランは変われるのだろうか。
経済制裁解除・強権政治の廃止が最優先課題
保守強硬派のアフマディネジャド政権は、核兵器開発疑惑で西欧諸国と、シリアのアサド政権支援で周辺国と対立を続けてきた。西欧諸国の経済制裁で通貨は3分の1に下落し、物価は1年余りで2倍になって国民の生活を圧迫した。この経済の閉塞状態から抜け出すこととイスラム的な抑圧からの解放が選挙の焦点だった。
イランの政治は最高指導者ハメネイ師を中心に動く。当初、師に近い候補者が優勢と見られていたが、途中から変わった。ロウハニがシンボルの大きなカギをかざして、「核開発問題も経済制裁もこの英知のカギで解決できる。経済の建て直しもできる」と訴え、「扉を開けて」と叫ぶ姿が国民を捉えた。
得票はハメネイ師派の2人を合わせた17%に対し、ロウハニは50%を超える圧勝だった。支持派の若者は「現実味がある。新しい道を開くと信じている」と語る。貿易会社の経営者は「通貨の暴落で収益は2年前の4分の1になった。国が核を持つことより生活が大事」という。
ロウハニは政権から抑圧されてきた人たちの支持も集めた。全国紙の編集長は政府の無策を批判する記事を掲載しようとして、記者たちが拘束された。「経済、社会、文化部から1人づつ、政治部は2人」という。ロウハニは言論の自由を訴えていた。選挙では、学生たちが治安当局の目をかいくぐってネットで投票を呼びかけた。「みんなが5人の友だちにメールすれば、何万人もがロウハニに投票することになる」――大勝利の一因となった。