厚生労働省が発表した生活保護受給者数が過去最高の216万人に達した。給付総額は3兆7600億円に膨らんでいる。国は不正受給の罰則強化と生活困窮者への自立支援の二本立てを打ち出したが、参院本会議で泥仕合の末に採択されず廃案になった。生活保護費の減額だけが8月(2013年)から始まる。
生活保護を受給している216万人のなかで、圧倒的に多いのが高齢者、次いで傷病・障害者、母子の順になっているが、それ以外にここ10年間で目だって増えているのが「稼動年齢層」といわれる人たちで、30万人近くに達する。雇用情勢が厳しいなかで就職がままならず、働きたくとも働けない生活困窮者たちだ。そうした人たちに適切な支援を早く行なうことで就労を実現し、自立に繋げる動きが各地の自治体で始まっている。
大阪・豊中市「中間就労」職場経験で働く習慣取り戻せ
生活保護受給者数が全国で最も多い大阪市の今年度予算の生活保護費は、2967億円にのぼる。歳出の17%だ。そこで市は、2年前から民間企業に委託して稼動年齢層を対象に手厚いサポートを始めている。
かつて医療機器会社に契約社員として働いていた44歳の男性は、足の病気で入院したのをきっかけに失業し、治療費をまかないきれず生活保護を受給し始めた。大阪市から委託を受けた女性支援員はまず面談支援を行う。男性の体調を気遣いながらも、働く意欲があるうちに就職活動を始めるよう促す。支援員によると、「3か月、4か月、下手をしたら1年、2年と空いたら、受け入れる会社の見方が全然違ってきます。短いほうがより有利」という。
面談支援の次はハローワークに同行し求職活動を支援する。就職先が決まれば定着できるように支援もする。サポートの期間は原則3か月で、集中的な支援で就労に結び付ける。しかし、就活で失敗を繰り返し、引きこもりになる受給者も少なくない。就職にたどり着けるのは全体の6割という。こうした長期受給者への対応が今後の課題だ
大阪・豊中市は長期受給者が気軽に集まれる「居場所暮らし応援室」を設け、自分で血圧や体重測定などの健康管理も行いながら就労へつなげる「中間的就労」と呼ばれる支援に取り組んでいる。定期的に外出する機会をつくり、日常生活を立て直す自立から始め、地域のボランティア活動を通じて社会参加を促す。次のステップは、市の施設を使って職場体験を行い、働く意欲を取り戻してもらう。ここでは謝礼も出る。
コストかかっても「受給者がいずれ納税者に」
自立支援など社会保障政策に詳しい中央大学の宮本太郎教授はこう話す。「この厳しい時代では、どなたでも失業する可能性があります。病気、家族のケアなど、2つか3つの事柄が重なれば急に生活保護の受給に至ってもおかしくありません。
そうした中で、実際は働きたいんだけれどいま一歩踏み出せない人、中間ゾーンのところが広がっているのです。そのグレーゾーンを支えることで状況が劇的に変わってくる。多少コストがかかるが、受給者が納税者に代わるわけで、いずれは大きなリターンになる。だからこれは追求してやっていくしかないのです」
国谷裕子キャスター「豊中市の『中間的就労』の取り組みについてはどう思いますか」
宮本教授「同じような取り組みは全国で広がりつつあり、これからは自立支援のキーワードになっていくと思います。長い間、仕事から遠ざかっていた人が、急に一般的就労でバリバリ働くのは難しいですから、本格就労の一歩手前で『慣らし雇用』をやって感覚を取り戻す。ヨーロッパでも広くやっていて定着率もいいですね」
最終目的である自立に向けた職場をどう確保するかも課題になる。神奈川県川崎市の生活保護・自立支援室の職員が都内のIT企業を訪れ、生活保護受給者100人を雇用してもらう協定を結んだ。この企業は障害者やニートを積極的に雇用しており、そのための誰でも働きやすい職場づくりをしている。ビジネスで必要な挨拶や身だしなみの就労研修も行なっている。研修費用は川崎市が負担し、IT企業は自治体と組むことで意欲ある人材を確保できるメリットがある。
捨てる神は多いが、拾う神はそういない。宮本教授は「働こうという意欲を持っている人を皆で支援する。生活保護が必要な人は守らなければいけないが、本来この制度はそういう働く意欲を支援するのが目的だ」と話した。
モンブラン
*NHKクローズアップ現代(2013年6月26日放送「働く力を取り戻せ~『脱』生活保護への挑戦~」)