「村田英雄の歌を思い出して口ずさんで救助待ちました」
レポーターの阿部祐二が小山さんに話を聞いた。登山歴15年、小柄だが飄々とした感じの人だ。
どんな気持ちで待っていたのか――「雨の中はヘリコプターは飛ばないので、13日は警察も動けないだろうと思いました。食料には手を付けず、スポーツ飲料の粉末を川の水で溶かし飢えをしのぎました」
夜は――「あまり眠らなかった。細い板を見つけてその上で寝たが、ベッドじゃないんだから尻は痛いし、背中は痛いし、うつ伏せになったら胸が痛いし」
何をしていたのか――「何もすることがないんだよ。本も持ってない。音楽も聞くことができない。村田英雄の歌を思い出して口ずさんでいました」
SOSを思いついたのは――「雨があがったら、もしかしたら釣り人が入ってくるかもしれない。それでSOSを思いついた。助けてくれた2人におにぎり1個とドーナツ1個もらいました。うまい、うまい。ああいうときは、弱気になっちゃダメだと思うよ」
阿部は救助されたポイントを3つあげる。「SOSのメモ、十分な装備と食料、それと動かずに救助を待ったこと。とにかく冷静、判断が的確でした」。偶然にも助けられたが、これから夏山に向かう人には見習う点が多い。
文
一ツ石