アベノミクスへの期待から年初来(2013年)ジリジリ上昇し、4月に日銀が異次元の金融緩和を打ち出して急騰した東京株式市場だったが、5月下旬に一変して急落し、その後も乱高下を続けている。相場の主役は海外の投資家たちだ。半年の間に東京市場に流れ込んだ海外からの投機マネーは10兆円に及ぶ。ところが、ある日をきっかけに海外からのマネーが逆流し始めた。見えてきたのは危なげなアベノミクスの行方だ。
アメリカの金融緩和縮小発言、日本の長期金利上昇で危機感
久しぶりの株価急騰の背景には、日米両国の中央銀行による金融緩和政策がある。デフレからの脱却を図る日本銀行が異次元の金融緩和に踏み切ったことによって、昨年まで割安に放置されてきた日本の株式相場が急上昇、高く買われすぎた円相場が円安に転じた。米連邦準備制度理事会(FRB)も過去に例のない規模で国債などの買い取りを行い低利の資金を潤沢に市場に供給してきた。
その結果、今年に入りニューヨーク株式市場は連日最高値を更新し、低迷を続けてきた不動産市場にも緩和マネーは流入してリゾート地のマンションは、販売価格が急上昇にも関わらず飛ぶような売れ行きだという。ニューヨークの金融商品の取り引きを仲介している会社では、見向きもされなかったギリシャ国債が人気になっているという。
昨年末から日本株に積極的に投資を進めてきた米シカゴのヘッジファンドの武器は、1000分の1秒単位の超高速で取り引きできる最新のコンピューターシステムだった。市場に伝わるさまざまな情報を瞬時に判別し日本株を買いまくった。転機が訪れたのは5月に株価が急落した前日だった。FRBのバーナンキ議長の「景気の回復がしっかりしたものだと確信できれば、今後数回のFRB会合で金融緩和を縮小することもあり得る」という発言に敏感に反応した。FRBが蛇口を締めれば世界のマネーの流れが変わる。これに日本の長期金利が一時1%まで大きく上昇したことも加わった。
ヘッジファンドはこの2つの動きを日本株下落のサインと判断し、瞬時に売り抜けたという。幹部は「全体的に見れば非常に利益の大きな取引でした」と満足げに話す。国内外の金融市場の動向を分析している倉都康幸(金融評論家)は、「やはり投機的な金が主体なので変動率が高くなります。困るのは企業経営をされている方。マーケットが不安定になると、長期の経営戦略として、人を雇っていいのか設備投資に出ていいのかわからず、不安心理だけが高まります。とくにアメリカの長期金利が少し上昇したのに連動する形で、日本の長期金利が1%つけました。そうした状況を見て、株式も為替も無視はできない」
秋に世界マネーの流れ激減…「今は売っておくタイミング」
では、世界の金融市場に大きな衝撃をもたらしたFRBの政策転換があるとすればいつごろなのか。かつてバーナンキ議長の下で、金融政策を決める会合の声明づくりに携わってきた元FRB高官のロベルト・ペルリは、「FRBは現時点でバブルが起きているとは思っていないでしょうが、こうした状況が長く続けばバブルになるかもしれないと注視しているでしょう」と前置きしてこう語る。
「(あの発言は)今年9月ごろの金融緩和縮小を念頭に置いたものだと思います。予想より早く縮小が行なわれるかもしれませんよと、市場に準備させようとしたのではないか」
FRBの取材を続けるニューヨークの布施谷博人記者は現地の模様をこう伝えている。「早ければ9月に緩和縮小を決めるのではという見方は広がっています。先進各国が過去に例のない金融緩和を走っている中で、先頭を走ってきたFRBが縮小に舵を切れば、超金融緩和が終わりに向う第一歩になると受け止められる可能性があります。そうなれば、世界のマネーの流れが激変するきっかけになる。このところFRB関係者からは『金融緩和を縮小した場合でも、わずかにマネーの流れは減るものの緩和は変わらずに続く』という発言が増えています」
今週の18、19両日にFRBは金融政策を決める会合を開く。この会合の行方を固唾を呑んで見守ることになりそうだが、アベノミクスの行方にどんな影響を与えるのか。倉都氏はこう指摘した。
「規制緩和も必要ですが、それだけでは不十分です。生産性をどう上げられるか、どういう成長性をストーリーとして描けるか、どうやって業績を上げていけるか。それがないと政府と企業両方のバランスのとれた戦略が出てこないでしょう。それが出てこないと海外からのマネーも入ってこないと思います」
モンブラン
*NHKクローズアップ現代(2013年6月12日放送「突然の乱調 金融市場に何が」)