ドメスティック・バイオレンス(DV)の被害が急増している。昨年(2012年)、配偶者の暴力で警察が対応した件数は4万3950件に上り、前年より28%も増加して過去最多となった。なぜDVは起こるのか、防ぐ方法はあるのか。レポーターの阿部祐二がDV夫を更生させるプログラムの現場を取材した。
父から「言ってわからなければ叩いてもいい」と教わってきた
横浜市のあるマンション。集まっているのは妻に暴力をふるったDVの加害者たちだ。30代から50代の6人の男性が更生プログラムを受けている。妻に対して行ったことを告白させることで、自分の行為がDVだったことを自覚させ、反省を促す狙いだ。そのうちのひとり、Aさんの場合はこんなだった。
「私は本当にひどいDVをしていました。言葉の暴力、身体的暴力、物を投げたり、唾を吐いたり、蹴ったり、叩いたり。精神的暴力もひどかったです。DVを始めたのは結婚してすぐでした。子どもがお腹にいるときに、初めて妻の足を蹴りました。以来、DV期間は結婚年数とほぼ同じ8年間です」
「(なぜ抑えることができなかったのか)私は父から『言ってわからなければ叩いてもいい』と教わってきたので、それが正しいものだと思っていました。だから、自分はDVの加害者ではないと思っていました」
DVだと気づいたのは、妻が耐えられなくなって荷物をまとめて出て行ったときだ。インターネットで「DV加害者の行為」を検索してみて、自分のやってきたことはDVに当てはまると思った。そこで、更生施設を探して参加したのだという。今ではことば使いも「おい」が「ねえ」に、子どもに対しても「何やってんだよ、この野郎」が「ちゃんとしてね」という風に変わった。
更生プログラムを受けて約2年が経過したAさんは、去年(2012年)4月から家族と同居を再開している。1年以上経って妻も「もはやわが家にはDVは存在しません」と語っている。
心の中からいくつもの「べき」を取り去る
女性・人権支援センター「ステップ」の栗原加代美理事長はDV夫の更生について、「妻はいつもにこやかであるべきとか。家事を完璧にすべきとか、夫に従うべきとか、『べき』をいっぱいつけていると、妻がそれをしていないとき、怒りによって暴力で変えようとします。『べき』をとればいいんです」という。
キャスターのテリー伊藤「もう一方で、夫には夫はこうあるべきだという意識もあるんですね。サッカーの奥大介容疑者の時も感じたが、自分の中に夫のあるべき強さのようなものがあって、弱さを妻に出せなかった面がある。突っ張ったままの態度で手を出していってしまった。自分の弱さを妻にうまく話すことも大切なんですよ」
たしかに「べき」という言葉はポイントだ。「こうあるべき」という考え方の転換がまず一歩かも知れない。