知的障害を持つ30歳のマコ(貫地谷しほり)を男手で育ててきた愛情いっぽん(竹中直人)は、知的障害者のためのグループホーム「ひまわり荘」にマコを連れ、住み込みで働き始めた。いっぽんはかつては人気漫画家だったが、妻が亡くなってからはマコの世話で休業せざるを得ず、人生をマコに捧げてきた。マコもいっぽん以外の男性と接すると発作を起こした。しかし、ひまわり荘で暮らすようになってから、マコは住人のうーやん(宅間孝行)には心を開くようになる。二人は結婚すると言い始める。
一方、施設は資金難などでいっぽんを雇い続けることができなくなり、父親と娘に別れの時が来ていた…
「悲しいのに笑っちゃうよ」
物語はマコが亡くなったことを報じるニュースから始まる。なぜマコは死んだのか。そのいきさつが徐々に明らかになっていく。2012年に解散した劇団・東京セレソンデラックス(主宰はうーやん役の宅間孝行)の人気舞台を堤幸彦監督が映画化したもので、舞台のように撮りたいという堤監督の意図で、ほとんどの場面がひまわり荘の談話室だけ演じられる。スクリーンを見ているのに舞台演劇を観ているような気分になるが、限られた空間の中で物語が進んでいくことで登場人物の機微が際立ち、物語に入り込みやすかった。
知的障害者が社会にとってどのような存在であるのか。マコの将来を心配するいっぽんの言葉が重い。マコの死は決して作り物の世界のことではなく、昨今、新聞やテレビで見聞きする一事例であり、私たちにごく身近な世界で起こっていることなのだと痛感させられる。この親子が選択する道は他になかったのか。
悲しく切ない結末に、劇場では観客のすすり泣く声があちこちから聞こえ、筆者もハンカチを手放せなかったが、ラストは不思議と優しく明るい気持ちになった。いっぽんがマコやうーやんたちを見て言う「悲しいのに笑っちゃうよ」という言葉が、あとからあとから胸に響いてくる映画だ。
バード
おススメ度:☆☆☆☆