史上最高齢で蛇笏賞受賞した俳人・文挾夫佐恵99歳「艦といふ大きな棺沖縄忌」
今週の最後は、週刊ポストの99歳で史上最高齢蛇笏賞受賞した俳人・文挾夫佐恵(ふばさみ ふさえ)さんについての特集。私はこういう週刊ポストの嗜好が好きである。
こういう句がある。
あな踏みし華奢(きゃしゃ)と音してかたつむり
金子兜太氏がこう解説している。
<「思わず踏んでしまった、かたつむり。その殻の音。この句がうまいと思うのは、踏んだ時の音感を華奢という漢字で表記し、きゃしゃ、とルビをふって見せている点」>
次の句は92歳のときに読んだ。
艦といふ大きな棺沖縄忌
佐怒賀正美さんはこう語る。
<「『艦』は『ふね』ではなく、『かん』と読む。字義は『いくさぶね』。沖縄戦で『艦』といえば真っ先に思い浮かぶのは『大和』である。しかし、この句はそれだけを表しているのでは決してない。
この句では、『大和』以外の自国の戦艦、さらには敵の軍艦まで思いが拡がります。どの『艦』にも兵として乗っていた多くは、文挾さんと同世代の純粋な若者たちでした。さらに『沖縄』こそが紛れもない『艦』であり、大きな『棺』でもあったわけです。戦争が生み出した軍艦や戦闘機、戦車などの本質が『棺』だとわかった時、あらかじめ組み込まれた悲劇性と人間の愚かさが浮かび上がってくるのです」>
戦後68年経つ今も戦争への思いを強く噛みしめている句がある。
身は古りてかの夏の日の海は在り
老いを見つめる句の中で、情熱のほとばしるような句も多い。
胸の炎のボレロは雪をもて消さむ
香水は「毒薬(ポアゾン)」誰に逢はむとて
九十の恋かや白き曼珠沙華
元気をもらえる句である。