「野球の練習では質より量、1日に何時間練習したのかが重視されます。でも、大切なのはむしろ質。効率よく中身の濃い練習をどう行ったかが重要です」
今年1月(2013年)、東京大野球部の特別コーチに就任した読売巨人軍の往年のエース・桑田真澄はこう語った。
キャスターの国谷裕子「桑田さんは現役時代、173勝と素晴らしい成績を残しています。他のピッチャーに比べ体格は小柄でした。その桑田さんが東大野球部員に何を伝えようとしているのか。そのコーチングを追いました」
就任して驚いた「練習のしすぎ」「負けても悔しさのなさ」
東京六大学野球で東大野球部は15年連続で最下位だ。桑田がコーチになり、まず驚いたのは「練習のやり過ぎでした。1日に12時間近く練習をしていました。でも、試合に負けても悔しさがない。こだわりがありませんでした」と振り返った。国谷は「桑田さんは高校時代、毎日練習というそれまでの練習のやり方に対し、監督に練習がない日を提案し、独自の練習メニューを考えました」と解説する。
桑田は東大野球部の投手陣に一つの提案をした。さまざまな球種を投げ分けるより、自分の得意玉を持てと言うことだった。桑田は「130キロのスピードでいろいろな変化球を投げても、コースはなかなか定まりません。それよりも、自分の勝負球はこれだというのが身につき、10球中8球決められれば大きな武器になります」と説明する。
投手陣に外角低めのアウトローを投げるようにも奨励した。外角低めのアウトローは打者がボールかストライクかと一瞬迷い、バットを振ることをためらうコースだからだ。桑田が現役時代に得意玉でもあった。対明大戦で浅井俊一郎が投げた外角低めのアウトローの映像が流れた。投げた瞬間にボールが2個分浮いてしまい打ち返された。桑田は「この時、浅井投手の上半身には力が入っていました。以前からピッチングでは力を抜けとアドバイスしていましたが、上手くできなかったようです」という。