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伝説の編集長が語った「なぜ週刊誌が面白くないか。辞表を懐に入れてないから」

   話は少し変わるが、先日、桜井秀勲さんにお会いした。元『女性自身』の名編集長で、その後「祥伝社」で隔週刊女性誌『微笑』を創刊し、大ヒットさせた伝説の編集者である。80歳は超えているが、矍鑠という言葉が実に似合う素敵な人である。桜井さんの前では私などハナタレ小僧だ。

   女性にもてる人で、女性に関する本だけでも100冊以上出している。いろいろ話を聞いたが、中でもおもしろいのは『微笑』の話である。ときは1971年。私はこの雑誌が出たとき、あまりの凄さに絶句したものだ。硬派の記事もあったのだろう。だが、それよりも女性のための性生活の知恵が満載なのだ。それも後に出る『anan』の「セックスできれいになる」などという半端なものではない。

   まだ、男でも性に関する話は酒の席でも憚られた時代である。しかし、桜井さんはアメリカの雑誌を見ていて、これから日本も女性が性に貪欲になる時代が来ると読んでいたのである。女のSEXと快楽を高らかに謳った雑誌だった。内容もそうだが、付録がまたまたすごかった。ネットの「NEWSポストセブン」から引用してみよう。

【上つき・下つき測定器】
測定コンパスを切り抜きます。両先端を膣口と肛門にあてます。測定板の目盛を読みます。下つき、ノーマル、上つき(名器)がたちどころにわかります。
【クンニリングス舌技練習カード】
カッターで窓をくり抜き、指定のルートを順番に彼の舌でなぞってもらえばたちまち昇天!
【ペニス愛撫 実習用くり抜きカード】
唇の中の内円をくり抜きます。勃起した彼のモノを太さがいちばんピッタリの唇に挿入。あなたは唇の反対側に突き出たペニス部分をフェラチオしてください。彼はもう1人のあなたに舐められている感じがして大興奮!
【彼のオチンチンは名刀か】
まず、裏面を読んでください。そのあとで、オチンチンの型抜きをしてください。型抜きされた空白部分に彼のオチンチンを差し込んで測ります。女性が歓ぶ理想サイズは、長さ14センチ、亀頭の直径4.4センチ。

   読者の女性は一生懸命切り取っては、男性器に、そして女性器に粛々と付録の厚紙をあてがったのですね。

   桜井さんは「毎号、牢獄に入る覚悟で作ってたんですよ」と語っている。「警視庁に行っても、勝手知ったる場所だから、案内に頼らずいちばん奥まったところまで行くんです。そこで『またか』と、こんこんと叱られまして」「でも、また作るのです」と桜井さん。警視庁に小言をいわれるが、それ以上はない。この付録は実用でわいせつ物ではないからだ。私が「よくやりましたね」というと、桜井さんは「これぐらいやらないと売れないですからね」と答えた。

   それからいまの雑誌、週刊誌の話になる。「なぜおもしろくないんでしょう?」と聞くと、「思い切ったことをやっていないからです。編集長が辞表を懐に入れて、やろうと思えば何でもできる。それをやろうとしないからおもしろいものができない」とおっしゃる。

   そのとおりである。これは軟派記事でも硬派でも同じだ。私も編集長時代、何度も決断に苦しむときがあった。一人でトイレにしゃがんでじっと考える。最悪の事態を想定する。1時間、ときには2時間個室にこもる。最後はこういいながらトイレを出る。「殺されるわけじゃないんだ」。そうして編集部に戻り担当者に「やるぞ」と声をかける。

   私は何度も東京地検に呼ばれたが、逮捕されたことはない。がんばれ編集長、がんばれ編集者諸君。もっとおもしろい週刊誌はできる……はずだ。

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)/「競馬必勝放浪記」(祥伝社新書)ほか

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