人を殴って「熱中症だったのですみません」と勘弁してもらうことができるのかどうか。おととい28日(2013年5月)、傷害罪に問われた男性会社員(31)に「熱中症による急性錯乱状態で心神喪失だった可能性がある」として、神戸地裁は無罪判決を言い渡した。熱中症で責任能力が問えないとした判決は珍しい。
散歩で通りがかった高齢男性殴る蹴るで重傷
会社員は昨年9月11日(2013年)の夕方、神戸市中央区の公園で花壇の手入れをしていた男性の顔を殴り軽傷を負わせ、さらに散歩で通りがかった白井輝一さん(80)の頭を殴って倒し、顔を踏みつけるなどして高次脳機能障害の後遺症が残る重傷を負わせたとして起訴された。
会社員は事件2日前の9月9日、香川県丸亀市から大阪で行われたイベントに参加した後、神戸港からフェリーで帰ろうとしたが乗り遅れた。このため、近くの公園で野宿をし、その際にかばんや現金を盗まれた。2日間も市内を探して歩き回り、11日午後6時ごろ突然事件を起こした。
判決は「2日にわたり十分な睡眠、食事をとっておらず、気温28度、湿度60~80%と高温多湿だったことから、当時、被告は熱中症にかかっていた」と認定したうえで、「熱中症により、被害妄想などの意識障害が生じていたため犯行に及んだ」として無罪を言い渡した。
専門家「熱中症だったら動けない」「いや、幻覚症状出ることある」
熱中症の患者が暴力行為に及ぶことは医学的にありうるのか。専門家に聞くと意見は分かれた。昭和大学医学部救急医学講座の三宅康史教授は「2日間飲み食いせず、野宿して最終的に熱中症に陥ったら動けませんよ。誰かを暴行するということは体力的にかなり難しいと思います」という。一方、北里大学医学部精神科の宮岡等教授は「熱中症のときは身体の中のいろんなバランスが崩れて、それが脳に影響を与え、幻覚症状みたいなものが出たりすることはあり得ますね。(熱中症患者が犯行に及ぶ)可能性は十分考えられる」と話す。
司会の小倉智昭「熱中症による心神喪失状態で無罪と聞くと、なんでと思いますよね」
レポーターの岸本哲也が解説する。「今回の裁判の争点は事件時に責任能力を持っていたかどうかです。会社員は白井さんをいきなり殴り倒したうえ顔を蹴ったり踏んだりの暴行を加えていますが、判決は会社員は通常は暴力的性格ではない、当時は意思決定の能力が完全に失われていた、といっています。つまり、ふだんは暴力的な性格ではないので、もし、意思決定能力があれば葛藤やためらいがあるはずだ、というのです」
小倉は「事件のあと、まさか、そんなことをする人だとは思わなかった、ということはよく聞きますが、それが判決の理由になるのは珍しい」「これはひとつの事件に対する判決なので、一般化することはできないという弁護士の意見もあります。殴っておいて、すみません、熱中症だったので、といったって、そうはいかないということですよ」
被害を受けた白井さんは判決について「全然納得できないので、控訴するしか方法がない」といっている。
一ツ石