子どもの声がいう。「もう死ぬかと思った。体が宙に浮いたんだ」
20日(2013年5月)、アメリカ・オクラホマ州ムーア市を襲った巨大竜巻で、子ども10人を含む 24人が犠牲になった。風速は最高90メートル以上。プロの観測者も「これまでで最大だった」という。何が起こったのか。
いくつもの竜巻が束になって強大化
アメリカ中西部のテキサスからオクラホマ一帯は「トルネード・アレー(竜巻街道)」と呼ばれる竜巻の多発地域だ。メキシコ湾から吹き込む湿った暖かい空気と北から来る寒気とがぶつかって積乱雲が発生し、その一部が竜巻になる。20日の竜巻ができる瞬間の映像があった。上空から雲の渦が伸びてきて、ついに地上に到達する。撮った人は「ゾウの鼻みたいだった」という。その鼻が幅2キロもあった。昨年(2012年)のつくば市の竜巻が500メートルだから、いかにデカかったかわかる。発生から消滅まで50分。人口密集地を27キロも突っ走って1万2000棟を破壊した。
警報システムもテレビ速報もあり、住民は日頃から警報・避難訓練をするなど竜巻に慣れていた。2006年にNHKが託児所を取材した映像があった。建物の真ん中に窓のないコンクリートで囲まれた部屋があり、これが避難所だ。今回もそこに逃げ込んだ。託児所の女性職員は「警報を聞いて、訓練通りに15人をトイレに入れたけど、まるで列車が通るようなごう音で、子どもたちは枕をかぶって泣きながら通過を待ちました」という。経営者の女性は「小さな子が窓から吸い出されそうになって、足をつかんでひき戻したんです」という。避難部屋を出てみると、屋根もなくなっていたが、全員無事だった。
オクラホマ大学の佐々木嘉和名誉教授は大学の屋上から観測していた。規模の大きさだけでなく、進む速度が遅いと気が付いた。「あれ、と思いました」。通常の竜巻の半分くらいの時速30キロほどで、ゆっくりと家を壊しながら進んでいたという。防衛大の小林文明教授は「竜巻は地上でもっとも強い風を生み出します。今回はその最大級のものが、不幸にも最盛期にゆっくりと市街地を直撃した」と見る。
近年の研究では「多重渦」と呼ばれる現象も確認されているそうだ。「多重渦」とは、ひとつに見える竜巻の内部がいくつかの渦に分かれている状態のことで、気象研究所の加藤輝之氏は今回も昨年のつくば市でも認められるという。高知大佐々浩司教授は大きな渦と小さな渦が重なると風の力が2倍近く強まるというシミュレーション結果があるという。幅が広がれば被害もそれだけ拡大する。
発生予報どこまでできるのか?到達15分前でも成功
日本で発生する竜巻は年間平均20ほどだが、過去10年の発生か所を地図で見ると、北海道から沖縄までまんべんなく起っている。ただ、6割が海岸近くだ。
国谷裕子キャスター「竜巻の予報はできるんですか」
小林教授「積乱雲の予報はできます。また、ドップラーレーダーで積乱雲の中の親の渦はわかるようになりました。あとは、そこからどうやって子どもである竜巻がタッチダウンするかがわかれば、予報はかなり進むはずです。今回は警報では成功した事例になると思います」
ええ、オクラホマの観測機関が警報を出したのは竜巻到達の15分前だった。それじゃぁ、サイレンもないテレビ速報もない日本では、「エッ!」と思った時はドカーンかもしれないではないか。
国谷「学校ではどこへ逃げたらいいでしょう」
小林「講堂や教室はガラス窓が多いから危険です。カベに囲まれたトイレとか廊下とか、考えておいた方がいいでしょうね」
おいおい、日本の学校や幼稚園はそんな小人数じゃないぞ。どうする?
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2013年月日放送「緊急報告 アメリカ巨大竜巻 『多重渦』の脅威」)