<カルテット 人生のオペラハウス>
華麗な人生、難しい美しい終わり方…大スターが老人ホームで知った「自分は何者か?」

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(C)Headline Pictures (Quartet) Limited and the British Broadcasting Corporation 2012
(C)Headline Pictures (Quartet) Limited and the British Broadcasting Corporation 2012

   人は誰しも年を取る。でも、思い出は色あせず美しく残る。そんな素敵で残酷な真実に、真っ向から向き合ったヒューマンドラマである。全編を彩るクラシックやオペラの名作も見どころだが、注目は原作舞台の踏襲では終わらない「人間味」を描いた部分だ。大スターであった老人歌手たちのプライドと自己嫌悪。名声が大きかった者ほど、現実を受け入れる辛さも大きい。その中でも、静かな余生を送る者、過去の自分に縛られる者……それぞれに自分を持て余したり、受け入れたり、と人生は難しい。骨太な「老いと人生」というテーマが根本にあるからこそ、より歌声が染みた。

「あんたのファンはみんな墓場でおねんねさ!」

   老人ホーム「ビーチャム・ハウス」では、かつての名歌手や演奏者が余生を過ごしていた。老演奏家たちのコンサートの興行収入でホームは運営されているが、資金繰りは限界に近づいていた。

   そんなとき、トップスターだったジーンがやってきた。時代を風靡した大スターの入所にホームは色めき立つ。彼女が来たことで再び世界四大歌手を結成して、演奏会の目玉になってくれるはずと考えたのだ。しかし、往年の自分を知る観衆に、みっともない姿なんて見せたくないとジーンは参加を頑なに拒む。説得に心動かされていくジーンはついに……。

   「あんたのファンはみんな墓場でおねんねさ!」。強い語気にはっとさせられるシーンもあれば、苦悩を語るジーンに感情移入してしまうシーンもある。彼女の浮気で別れた元夫・レジーとのやりとりは、枯れてなお胸キュンの甘酸っぱさだ。

   レジーに「なぜ歌うのをやめた」と問われ、「怖くなったのよ、きのうよりきょう、きょうよりあす、より良い舞台を作れないかもしれないって」と自嘲気味に話すうちに、ジーンの傲慢タカビーな表皮がはがれていく。誰よりもスターだったからこそ、「老い」を素直に受け入れられない。ようやく認めることができたジーンに寄り添うレジー。う、う、うつくしい。

「監督75歳、ヒロイン78歳、ヒーロー76歳」解き放たれまた青春

   脇を固めるのは、女好きの激情家・ウィルフ、素直で可愛い認知症のシシー。いずれも四大歌手といわれていた。子どもに帰っていくシシーの素直さと脆さ、普段はエロじじいだけれど、実は現実に前向きに向き合う姿勢が魅力のウィルフ。時が問題を解決してくれるというのは真実なのかもしれない。正確には「時が人の心を落ち着かせ、分かりあおうとする機会を与えてくれる」だけれど。

   監督75歳、ヒロイン78歳、ヒーロー76歳。観客の平均年齢も確実にオーバー60だった。おそらく、その世代が見れば、気持ちが華やぐ良作なのだろう。老いたから撮れる映画と見る向きもある。いろいろな地位やしがらみから解き放たれた今だからこそできる青春だ。でも、若者が見ても間違いなく心洗われる。そして本気で胸キュンできる!という事実を大声で主張したい。

   ただ、睡眠不足にだけはお気をつけて。全編を通してバックミュージックは美しい声楽が中心で、ときに台詞なしの音楽シーンが続く。途中、隣のお姉さんが睡眠モードに入ってしまったときはちょっぴり残念な気持ちになった、とだけ申し上げておきます。ハイ。

(ばんぶぅ)

おススメ度☆☆☆☆

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