風疹が爆発的に流行している。4月(2013年)までに5000人を超え、昨年の30倍以上だ。東京都の感染症情報センターがまとめた患者のグラフを見ると、感染者の大半が大人で、男性は20代から40代、女性は20代がほとんどである。国のワクチン政策の転換で、子どものころにワクチン接種を受けなかった「谷間の世代」と呼ばれる人たちだ。
34歳から51歳までの世代は接種の対象は女子だけだった。そのため男性は免疫がない人が多い。次が23歳から33歳までの世代で、男女ともに接種の対象となったが、女性の患者はむしろ多く、男性もあまり減っていない。実はこのときワクチン行政に大きな変更があった。
80年代から90年代にかけて相次いだ予防接種による死亡・後遺症をめぐる裁判で、国は立て続けに負けた。厚生省は法改正をしてそれまで義務であった予防接種を「受けるよう務める」と個人の判断に委ね、学校での集団接種もなくなって接種率が大きく低下したのだ。これについて、厚生労働省は「国民の目が副作用というネガティブな部分にいった。行政はそれを無視して接種を進めることはできない」という。
欧米からは「日本は感染症輸出国」
9年前の大流行も同じ「世代」が問題だった。このとき厚労省は専門家グループに対応策の検討を依頼した。医師の宮崎千明さんは「世代問題」の危険を指摘して、この世代への予防接種を提言したが、国は何もしなかった。「総務省から財務省までの意志が固まらないと国は動かない」と嘆く。
今年はすでに10人の赤ちゃんに障害が認められている。無策の結果だ。埼玉の30歳の女性は風疹感染で長男に難聴が出た。「1本のワクチンを受けなかったのは、私の責任なの?」
おたふく風邪、水ぼうそう、B型肝炎、肺炎球菌(成人)のワクチン接種は、欧米では政府が実施し、費用も公費負担だが、日本では幼児期をはずれると個人に委ねられ費用も原則自己負担だ。接種率が低く「感染症輸出国」とささやかれている。
動かない国に先だって、東京・墨田区は接種への補助(無料)を始めたが、予算は限られ対象は妊娠を希望する女性とその夫だけだ。区をあげて接種をうながしているが、1か月半で想定の4割しかいかなかった。「自治体だけでは限界がある」
新潟大学大学院の齋藤昭彦教授は「ワクチンの効果の方は病気がなくなるから目に見えなくなる。逆に副作用の方が目についてしまう。はるかに大きな効用の方に目を向けてほしい」という。