アベノミクス持ち上げ消費増税にも肩入れ
今週の注目記事は週刊ポストの「安倍晋三と朝日新聞の『不適切な蜜月』」である。 週刊ポストによれば、朝日新聞は安倍首相にベッタリだというのである。これまで朝日新聞は安倍政権には批判的だったはずだが、それが宗旨替えをしたというのだ。引用してみよう。
<ここにきてその朝日の論調が一変した。これを読んでいただきたい。
安倍首相が、「強い日本。それを創るのは、他の誰でもありません。私たち自身です」と国民に呼びかけた施政方針演説に対して、朝日は社説で、「施政方針演説 さあ仕事をしよう」(今年3月1日付)とエールを送り、 4月5日には、「政権100日 難所はこれからだ」という社説でこう持ち上げているのだ。
〈安倍首相が「経済再生でロケットスタートを」と宣言した通り、大規模な財政出動と金融緩和の「アベノミクス」を打ち出し、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加に道を開くなど、次々と手を繰り出した。首相の持論である「戦後レジームからの脱却」をひとまず封印し、最大の懸案だった経済再生に集中的に取り組んできた姿勢は評価できる〉>
べた褒めといっていいと週刊ポストは書く。これほど安倍首相におべんちゃらをいうのは、ある事件が絡んでいるというのである。<この事件は、朝日新聞が05年1月に、「NHK『慰安婦』番組改変、中川昭・安倍氏『内容偏り』前日、幹部呼び出し指摘」との見出しで報じた。NHKの従軍慰安婦問題番組の放映前、安倍氏が、「公平ではない」として番組内容を変えるように政治圧力をかけたという報道だ>(週刊ポスト)
当時、安倍は自民党幹事長代理で、それ以来、朝日新聞と安倍の仲は犬猿になるのだが、その安倍が首相になってしまったから、朝日はあわてた。そこでこんなことを企んだと週刊ポストで朝日の政治部記者が話している。
<追い込まれた朝日は『相打ち』に持ち込もうとした。
「こっちも、『だったら政権を潰してやろう』という気になる。当時、安倍さんは公務員改革で官僚の反発を浴びていたから、政権批判の材料なら官僚からどんどんリークが来る。官僚と仲良くなって、追い落としをかけたら政権が本当に潰れてしまった」>
朝日の変化でもう一つ見落とせないのは、かつてリクルート事件報道で竹下内閣を退陣に追い込むなど「反権力の調査報道」に定評があった社会部の弱体化だという。この数年、政治家の構造汚職など大型スキャンダル報道が紙面から消え、社会部のベテラン記者はこう嘆いているという。
<「政治家とトラブルを起こすばかりの社会部はいらないと上層部から批判され、一昨年10月に調査報道専門の特別報道部を独立させたのが原因です。結局、社会部の士気は下がり、せっかく作った特別報道部は原発事故検証の連載『プロメテウスの罠』にかかりきり。政治スキャンダルを発掘する力がなくなった」>
また、安倍首相のメディア攻勢は朝日だけに限ったことではなく、「首相就任以来、朝日、読売、毎日、日経、産経のトップと会談し、テレビも民放キー局の会長や社長を総なめにしている」(週刊ポスト)というのである。メディアの経営者が政権のトップと会うというのは、週刊ポストならずとも、おかしいと思う。そうした権力への擦り寄りが部数に響いてくると、都内の朝日販売店の経営者がこう話している。
<「最近、購読者から『記事がつまらなくなった』『以前は紙面がとんがっていたが、今は戦っている感じがしない』といった声が非常に増えている。昔からずっと読んでいる人ほど、そう感じるようです。私から見ても、一体、右を向いているのか左を見ているのかわからないお茶を濁すような書き方ばかりで、朝日らしさが減った」>
最近は、安倍首相が朝日をよく読んでいるそうで、「あの記事はよかった」という電話がかかることがあるというのだ。権力者から喜ばれる新聞など、大方の国民は読みたくない。私は朝日新聞の読者だが、たしかにいまの朝日は消費税増税にも肩入れし、アベノミクスにも批判的ではない。消費税を後押ししたのは、第一次安倍政権で安倍を批判する材料をもらった官僚への『返礼』なのか。
かつて読売新聞は社会部でもってるといわれた。だが、渡辺恒雄氏ら政治部がのさばりだし、社会面に活気がなくなり、社会部のエースといわれた本田靖春さんは読売を離れてしまう。朝日新聞も同じ道をたどるのか。いろいろな意味で朝日の存在意義が問われている。