『ラストタンゴ・イン・パリ』(1972年)『ラストエンペラー』(03年)などの巨匠ベルナルド・ベルトリッチが『ドリーマーズ』(03年)以来10年ぶりとなる新作を撮った。監督デビュー作『殺し』(1962年)から50年という節目にあたる今作は、ニッコロ・アンマニーティの小説にベルトリッチが惚れ込み、映画化に動いた。ひとりでいることに至福を感じる14歳の少年ロレンツォと腹違いの姉との地下室での共同生活を通して、一風変わったベルトリッチ式通過儀礼を描く。
孤独癖のあるロレンツォは、学校のスキー旅行に行くと嘘をつき、自分の住むアパートの地下室で1週間、誰にも邪魔されずに愛する音楽と本に囲まれた生活を送る計画をたてて実行する。しかし、異母姉のオリヴィアの出現で計画は台なしになってしまい、秘密を握られてしまったロレンツォはオリヴィアの言いなりになってしまう。
デヴィッド・ボウイ「ロンリー・ボーイ・ロンリー・ガール」が泣ける
舞台はほとんど地下室である。ミクロな空間こそ監督の手腕が試されるが、百戦錬磨のベルトリッチの閉鎖された空間を活かした演出は巧みで、カメラワークと色彩設計がそれを助長していく。地下室なのに外の光が美しく映されているのは、単に光の対比ではなく、「ひとり」では経験できないことが外にはあるというベルトリッチの憎い演出であろう。
オリヴィアを鬱陶しく思っていたロレンツォだが、オリヴィアも孤独であり、問題を抱えていることを知って、オリヴィアに頼られることで内面に変化が起こっていく。ベルトリッチの「誰かといるのだって悪くないだろ」という二人の見守り方は、10年という歳月がもたらした自身の変化であり、晩期を迎えて新たな作風を感じさせる。ラストは明らかにヌーベルバーグの青春映画へのオマージュを意図しており、初心を忘れないという気概も伝わってくる。
気持ちの変化は、痛いほどに澄んでいる小動物のようなロレンツォとオリヴィアの表情をやわらかくしていく。その刹那、デヴィッド・ボウイ「ロンリー・ボーイ・ロンリー・ガール」(「スペースオディテイ」のイタリア語版)が流れ、映画の魔法に観客は支配される。その歌詞、メロディーが奇跡のように呼応し合い、全身の力が気持ち良く解れていくのを自覚するだろう。
川端龍介
おススメ度☆☆☆☆