「朝鮮人殺せ」で心配な…世論と勘違いする政治家
哀れといえば、以下のようなことをいった大阪鶴橋(生野区)の女子中学生も哀れである。「みなさんが憎くて仕方ないです。もう殺してあげたい。いつまでも調子に乗っとったら、南京大虐殺じゃなくて鶴橋大虐殺を実行しますよ!」。これは週刊文春でジャーナリストの安田浩一氏がルポしている「『朝鮮人を殺せ!』新大久保〈ヘイトスピーチ団体〉って何者?」の中に出ている。
私が住んでいるところから近い新大久保はコリアンタウンとして有名で、週末になれば若い女性や中年のオバサンたちでいっぱいになり、有名店には長い行列ができる。そこで毎週のように行われているのが「特定アジア粉砕・新大久保排害カーニバル」と称される「嫌韓デモ」である。日の丸と旭日旗を振り「朝鮮人売春婦を叩き出せ!」「韓国人は国に帰れ!」と大声で叫びながら拳を突き上げて通る。聞くに堪えない韓国人を侮辱する言葉も吐かれる。「朝鮮人ハ皆殺シ」という殺人教唆のようなプラカードもあり、在日コリアンの中には日本で暮らすのが不安だともらす者もいるという。
それを批判する人々も集まりはじめ、「レイシストは帰れ」「仲良くしようぜ」などと書かれたプラカードを掲げて無言の抗議をしているという。
それが大阪のコリアンタウンにも飛び火したのである。先の女子中学生の父親は地元では知られた民族派の活動家だという。父親は「我が国に喧嘩を仕掛けているのは韓国のほうじゃないですか。(中略)ヤツら(韓国人)は竹島を奪い取り、ときには日の丸を燃やしたりするなど過激な反日活動を繰り返している」と語っている。
日本と韓国の間には不幸な歴史があった。それは60余年ぐらいでは消し去ることのできない深い傷を朝鮮の人たちに植え付けてしまったのである。ノンフィクション・ライターの本田靖春さんは『現代を視る眼』(講談社)の中でこう書いている。
<朝鮮の民衆の意志と誇りを踏み潰して、のちに「土地を奪い、名を奪い、言葉を奪った」といわれた朝鮮支配は推し進められたのである。どこからどう見ても、日本は「加害者」であり、朝鮮は「被害者」であった。これは、明白な歴史的事実である>
「ネトウヨ」といわれるネット右翼のいい分は一部のもので、多くの国民は冷静で理性的である。だが、こうした声を世論と勘違いする政治家も中にはいる。いま起こっている北朝鮮の挑発行為は許されることではないが、だからといって、必要以上に過剰反応してしまうことは、もっと危険な状態に北を追い込むことになるはずである。ここは日本人が大人になって、あくまでも話し合いをする努力を続けることこそ肝要であろう。